兵鳳 短編

□そして、君と出逢う
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身体が、重い。
矢傷の残る背中が、熱を持って痛い。御蔭で腕までうまく動かせなくなってきた。

「……っ」

頭が、くらくらする。
今自分が存在しているのは、夢?現(うつつ)?
それすらわからなくなりそうだ。

ざざざ、と木々が音を鳴らした。
風に混じって白い物が舞っているのが見えた。
雪か?
……違う。

「花、びら……?」

よく見ればその色は白ではなく、薄桃色。
……桜か?

開けた所に出た。

「……っ!」

小さな花を枝から溢れんばかりに咲かせ、花弁を風に舞わせる桜の木が、そこにあった。

……ああ、そうか。もうそんな季節になるのか。
とは言え、まだ早いような気もするが……?

桜木の下を通ろうとした所で、身体の力が抜け、視界が反転した。

「……ぐっ」

怪我をしている背中から地面に落ちてしまい、呻(うめ)き声が口から漏れた。
……痛い。息が詰まり、苦しげに呼吸した。

さっきまで自分を乗せていたはずの馬は、何事もなかったかのように悠々と歩いて行く。
馬にしてみれば、主でもないくせに乗っていた曲者がいなくなって清々しているに違いない。

馬が行ってしまったのを見届けると、視線を正面に移した。
桜は先程と変わらず、その花弁を散らしている。
ぼんやりと、しばらくそれを眺めていた。

もう起き上がる気力も、体力も全くなかった。
……自分は死ぬのだろうか?

花を咲かせては散らす、桜のように、人の一生など儚いものだ。この世界に永遠はない。

できることならば戦場で死にたかったが、生憎神はそれを許してはくれないらしい。

……申し訳、ありません。

誰にとも言わず、謝罪の言葉を呟いた。いや実際は呟いておらず、心の中で言っていたのかもしれない。

花弁が舞い散る中、俊孝は目を閉じた。



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一時期拍手においていたもの。
壱と弐の間くらいの話。光風に拾われるのはこの後です。



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