呪術師の娘

□妖婦編
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▽二十二章 妖婦は待ちぬ

「ちょっとフェリオと娼館行ってくる。」
 レオナールの言葉を聞いたその瞬間。
 私は反射的に分厚い呪術書をレオナールに投げつけていた。



「――本当にごめんね。」
 むすっとした、明らかに怒った顔のレオナール。
 依頼とは気づかずに、あんな半分凶器の本を投げつけるなんて。
 私があんな急に本を投げつけるとは思わなかったらしく、本は、しかも本の角が見事にレオナールの眉間に直撃した。
 ぼたぼたとレオナールの眉間から流れる血。
 見た目より大したことない傷とはいえ、心がとても痛む。
「本当にごめん。」
「――。お前、俺が娼館で遊ぶように見えるか?」
「うん。」
 しまった。
 つい本音が。
 レオナールの眉間にはさらにしわが寄り、もっと不機嫌そうな顔になる。
「俺は香水臭い女は嫌いなんだ。」
「自分は着けてるのに?」
「――。」
「――。」
 やっちゃった。
 レオナールがますます不機嫌になっていくのが手に取るようにわかる。
 今日は対人運ないかも。
「――お前も来い。」
「どこに?」
「娼館だ。」
「私女だよ?」
「依頼だから関係ない。」
 でもこれでレオナールの機嫌が直ってくれたら儲けものだよな。
 私はあまり深く考えずに、行く、と行った。



 今私たちが来ているのは都市になる一歩手前といった大きな町、エルバだった。
 川を挟んで工芸品や交易が盛んな昼の町と、娼館や品の良くない酒場などが立ち並ぶ夜の町に別れている。
 その娼館は夜の町、東区の川沿いにあって、一際大きな建物だった。
「――本当に行くんですか?」
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