呪術師の娘

□聖都マリステ編
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▽三章 初めての都市は聖都マリステ

 聖都マリステ。
 唯一のランクS僧侶、ハーネラ・マリスタが冒険者を辞めた後、そこで暮らし骨を埋めたと知られる都市。
 マリスタに憧れた僧侶たちはこの地を目指し、修業した。
 それからこの地は僧侶の都市となり、多くはこの地で僧侶の修業を積み、引退した後もこの地で骨を埋める。

 本当に信じられないことだが、私とレオナールは千年魔女によってこの地に飛ばされていた。

「くそっ!」
 レオナールのお金でとった宿の部屋で、レオナールは椅子を蹴る。
 私の村が北の方にあるのに対し、マリスタはこの国の南の方。
 帰ろうと思ってもすぐ帰れるものではない。
 だからかレオナールは荒れていた。
 私だって泣きたいのにレオナールがこんな調子では泣くに泣けない。
 溜息を一つ吐いて、私はいつの間にか抱えていたリュックを見る。
 まだ中身は見ていない。
 タイミングからいって、きっと千年魔女が持たせてくれたものだろう。
 一体何が入っているんだろう。
 暴れるレオナールをよそ目に、私はリュックを開けてみた。
 ――入っていたのは袋に入ったクッキー、それから同じような袋に入っている大金、そして呪術書、指輪のケースに入っている、赤い宝石の嵌まっている金色の指輪。
 こんなに用意してくれているなんて。
 良くしてくれるのか悪くされているのか。
 私は指輪をケースから取り出して、指に嵌めてみた。
 ぶかぶかだ。
 ケースに仕舞おうとして、小さな紙切れに気付く。

レオナール用
体力を変換して魔術に対する結界が張れるわよ

 たぶん、母に対する対策だ。
 約束はきちんと守った、ということだろう。
「ねぇ、レオナール。」
「あ?」
 レオナールの方を見ると、私の座っているベッド以外は悲惨な状況だった。
 宿を出る時にどうするのだろう。
「この指輪、千年魔女さんからみたい。」
「何考えてんだあのアマ。」
「でも体力を何かに変換して、魔術に対する結界を張れるみたい。」
「そりゃいい。」
 レオナールは指輪を私の手から取り上げた。
 左の中指に嵌めると、それはレオナールのように設えられたようにぴったり嵌まる。
 少しは気分が収まったようで、レオナールは私の隣に腰掛ける。
「――ねぇ、レオナール。」
「何だ?」
「これからどうするの?」
「俺はあの村に戻ってクソババァに奇襲する。お前はどうする?」
「んー。そうだね、取り合えず連れてって。あとママはクソババァじゃないから」
「じゃあ僧侶がいるな。」
 レオナールはベッドに寝転がった。
「私だって治療できるよ?」
「そりゃ俺だって身を持って知ってるよ。」
 当然だ。
 私が母によるレオナールの傷を治したのだから。
「俺は攻撃を受けても持ちこたえられるが、お前はすぐ回復しなきゃ危ないだろ?」
「え? そんな危ない場所に行くの?」
「生活費も稼がにゃならんし、旅は何があるかわからんからな。」
「これじゃ足りない?」
 私はリュックに入っていたお金をレオナールに手渡す。
 レオナールはベッドにお金を出して数え始めた。
 全てを数え終わると、レオナールは私の方に首を捻った。
「これじゃギルドの登録料で半分消えるぞ?」
「私冒険者になりたいんじゃないよ? ギルドに登録なんてしなくてもいいじゃん。」
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