呪術師の娘

□旅立ち編
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▽序章 始まりは土下座

 私の父は偉大な呪術師だ。
 呪術師だと言うとマイナスのイメージは付き物だが、私の父は違った。
 呪術でこの国を護り、呪術で敵国を滅ぼした。
 それはもう百年も前のことになる。
 そんな父に母が惚れ込み、結婚したのが二十年前。
 それから私が産まれ、私もそんな父に憧れ呪術師になった。
 寡黙な年老いた父――それでも実年齢よりは遥かに若い――と、姉妹に見られることも多い優しい母。
 それに私達親子を頼ってくれている村人達。
 私はとても幸せだった。

「リズぅ、お客さんよぉ!」
 母特有の甘ったるい声に起こされて目が覚める。
 呪術の勉強の途中で寝入ってしまったため、部屋には呪術書が散乱していた。
 変な体制で寝てしまったため、首が痛い。
「誰?」
「知らないけどカッコイイ男の子よぉ。」
 パパには負けるけどね、と、のろけることを母は忘れない。
 私は一応の身嗜みとして鏡で自分の姿を確認する。
 ボサボサの髪を手櫛で整え、乱れたワンピースも軽く整える。
「ママ、その人どこにいるの?」
「玄関で待たせてるわよぉ。」

 階段を降り、玄関に向かうと、成る程、母がカッコイイと形容するだけの青年が立っていた。
 服の上からでもわかる逞しい体つきに、顔から体まで至る所にある傷。
 だけど野性的な顔立ちの顔にはよく似合っていた。
 薄い琥珀色の髪に緑の鋭い目。
 拳に巻いている包帯から、さしずめ拳闘士といったところか。
「お待たせしました。」
「あなたがリズさんですか?」
 その鋭い眼光に見つめられて、心臓が高鳴った。
 父みたいなインテリも良いが彼みたいにワイルドなのも好みかもしれない。
「はい、私がリズ=マリィ・ウォルターです。」
 その瞬間、彼は私の視界から消えた。
 いや、視界の下の方に彼がちらついている。
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