呪術師の娘

□六十一章 縁と呪
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 ねぇ、パパ。
 ここにはたくさんの呪術があるよ。
 怖い呪術もあるけれど、素敵な呪術もたくさんあるよ。
 パパはどうして、私に教えてくれなかったのかな。



 目の前が真っ暗になって、私は書物から目を上げた。
 辺りを見渡すと、蝋燭の火が消えている。
 リジィもいない。
 独りきりだ。
 急に怖くなって、私は辺りを見渡した。

 地上へ続くドアが開いている。
 リジィが出て行って、そのままにしたのだろう。
 とにかく明かりが欲しい。
 私は階段を上った。

 階段を上っている途中、話し声が聞こえた。
 その話し声の一つはリジィだと簡単にわかった。
 でも、もう一つは聞き覚えのない声。
 若い女の声だ。
 声が近づくにつれ、二人がどんなことを話しているのか想像できるようになる。
 いつもの皮肉な調子のリジィの声に対し、怒っている若い女の声。
 喧嘩、と言うには若い女の声が一方的で、怒られている、にしてはリジィの声はそれを受け流しすぎだった。
 鉢合わせしたら面倒なことになりそうだ。
 だがどんどん声は近づく。
 私は明かりをもらうだけでいいのに。

 二人の姿が見える。
 壁にもたれかかっているリジィを、若い女が一方的に責めているようだった。
 年の頃はレオナールより少し上くらいだろうか。
「あんたはいつもそうじゃない!」
 はっきりと言葉が聞き取れる。
 聞きたくないのに。
「いつも自分勝手! 私たちのことなんか考えもしない!」
「考える必要なんてないじゃないか。」
 リジィが溜息を吐く。
「なんでこの僕が才能の欠片もない人たちを気にしなければならないんだい?」
「――リジィ!」
「むしろ自分を恥じなよ。この里じゃあ、君みたいな普通以下の呪術師はお荷物でしかない。」
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