呪術師の娘

□六十章 呪いの村
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 今は夜だからか、ヘーレンに入っても誰もいなかった。
 ほっとしたような、寂しいような、不思議な気持ちだ。
「取り合えず僕の家に行こう。」
「うん。」
 誰もいない村をリジィ歩く。
 二人だけ取り残されてしまったような、変な気持ち。

 しばらく歩くと、リジィは一件の家の前で立ち止まった。
 その家は、辺りのどの家よりも古めかしい造りで大きい。
 リジィはその家の扉を開ける。
「入って。」
「――おじゃまします。」
 入ればすぐ、何もない部屋が広がっていた。
 奥にドアが一つあるだけだ。
「じゃあ書庫にでも行こうか?」
「うん。」
 もはや、私は胸が高鳴るのを隠すことができなかった。
 触れたことのない呪術が私を待っている。
 その期待が、私の中でとても大きく膨らんでいて。

 ふと、リジィが私に笑みを見せる。
 嘲りを色濃く含んでいる笑み。
 だけど私は何も言えない。
 この人は今、私を導いてくれるただ一人の人なのだから。

 リジィはドアを開けて、ずんずんと奥に進む。
 リジィの家とだけあって、明かりを点けなくてもちゃんと勝手がわかるようだ。
 しばらく進むと、また突き当たりにドアがあった。
 リジィがそれを開けると、暗闇を宿す下へと続く階段が顔を覗かせる。
 私の家の書庫も、地下にもある。
 父の研究室も兼ねているのだけれども。
「お先にどうぞ。」
 リジィが妖しく笑う。
 何を考えているのだろう。
 でも、そんなことはどうでもよくて。
 私は一歩を踏み出した。
 真っ暗な階段を自分の感覚と、壁を伝う手の感触を頼りに下りていく。
 あまりに暗くて、数歩先は見ることができない。
 緊張と期待で私の鼓動はとても早くなっていた。
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