呪術師の娘

□五十六章 善意は嵐のように
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 山小屋泊と野宿を繰り返している私たちは、今日は野宿だった。
 早めに野宿する場所に着いたため、今日の夕食はレオノーラの取った新鮮な焼き魚とスープ、それから乾パンである。
 今日は珍しく、というか有り得ないことに、リジィが夕食のスープを作ると言った。
 本当に有り得ない。
 けれどささやかなお礼のつもりらしい。
 ほんの少しだけ不気味である。

 なのでいつも夕食を作っている私とフェリオは、薪に使えそうな木を拾いに出た。
 いつもなら、魔物が出るかもしれないという理由でレオナールかレオノーラが同伴なのだが、今日はクレイシアがストーキングしてるから大丈夫ではないか、とのことでフェリオと二人である。
「リジィがスープ作ってくれるなんて、嬉しいけど不気味だよね。」
 私がそう言うとフェリオは困ったように笑う。
「もうすぐお別れですから、そういう気持ちになったのかもしれませんよ?」
「んー。」
 そうだろうか。
 リジィに、そんな人間らしい感情はあるのだろうか。
 私が眉間にシワを寄せると、フェリオは苦笑した。
「リズさん、あんまり人のことを悪く思うと良くない人間になっちゃいますからね。」
「――ごめん。」
 そうだ。
 人を悪く思うのは醜いことだ。
 フェリオに言われてやっと気がついて、私はとても恥ずかしくなった。
 人の善意を悪く言うなんて、私はなんて醜いことをしてしまったのだろう。
 相手がリジィでも。

 私が明らかに落ち込んでいるのがわかったのだろうか。
 フェリオは、溢れんばかりの慈悲を湛えた笑顔で私の肩を叩いた。
「気づくのが大事なんです。そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。」
「フェリオくん――。」
 胸がきゅん、とする。
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