呪術師の娘

□五十四章 表と裏
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 今日は山小屋で眠れた。
 私たち以外にも二組のパーティーがいる。

 夜にふと目を覚ますと、リジィが窓際で本を読んでいた。
 読んでいるのか眺めているのかわからないスピードでページをめくる。
 起きたのがバレたら気まずい。
 私は寝たふりを決め込んで目を閉じた。
「――ヘーレンは良いところだよ。」
 バレたのか。
「呪術師の全てがあると言っても過言ではない。」
「――。」
「君は呪術について知る必要がある。」
 パタン、とリジィは本を閉じた。
「一緒においで。リズ。」
 私は立ち上がった。
 そしてそのまま小走りで山小屋を出る。
 見張りをしているのは違うパーティーの剣士だった。
 会釈して、私はそのまま、その場所を離れる。
 何も考えていなかった。
 遠くまで行かなければ大丈夫。

 山小屋からある程度距離を置くと、私はその場に座り込んだ。
 木の幹にもたれかかる。
 胸に手を当てると、激しく脈打っていた。

 リジィはどうしてこんなに私に構うのだろう。
 ヘーレンに誘うのだろう。
 とても嫌だった。
 ヘーレンに心惹かれている自分が、とても嫌だった。
「パパ、ママ――。」
 会いたい。
 会って抱き締めてほしい。
 心配しないでいいよって言ってほしい。
 私は自分で自分を抱き締める。
 だけど、全然安心できなくて。
 むしろ寂しくて。

 早く会いたい。
 ヘーレンなんてどうでもいい。
 父母に会えれさえすれば大丈夫。
 ――そうに決まっている。

 その時。
 がさりと茂みが揺れた。
 こんな時間に誰だろう。
 まさかリジィが追って来たのだろうか。
 でも、山小屋と方向が全く違う。

 それは誰でもなかった。
 魔物だった。
 片目しかない銀色の毛皮をした、狼の魔物。
 シルバーウルフ。

 他の仲間がいない、ということは、群れからはぐれたのか追い出されたのか。
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