呪術師の娘
□五十三章 影は密かに
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あれから数日が経った。
レオナールとレオノーラの仲が進展するということもなく、リジィのすぐ疲れる体質が改善されるということもなく、私たちは山道を歩いている。
「ねぇフェリオくん。山頂までどれくらい?」
「そうですね。このペースだと三日か四日だと思いますよ。」
「そっかぁ。」
「じゃあリズとも、もうすぐお別れだね。」
リジィが薄い笑みを浮かべながら言う。
「どうせ王都側に抜けるんでしょ? どうしてわざわざ別々に行くの?」
「いや。」
リジィは首を左右に振った。
「僕が用事があるのは山頂だからね。」
「山頂に何があるの?」
リジィは冷たい目をしたまま微笑んだ。
笑っているはずなのに寒気を感じる。
そしてリジィは私の耳元に唇を寄せる。
逃げよう。
けれども逃げられない。
術も何も、ないはずなのに。
「素敵な場所だよ。」
「――素敵な場所?」
「そう、僕たちにとっては聖地。」
耳に、微かにリジィの息がかかる。
「君なら大歓迎だ。」
「おい。」
レオナールに腕を掴まれていた。
そしてそのままリジィから引き離される。
「何を言ったのか知らんが、リズに変なことを吹き込むな。」
リジィは肩を竦めた。
人を小馬鹿にしたように。
「過保護もどうかと思うよ?」
「あ?」
二人の間に険悪な空気が流れる。
どうしたらいいのかわからなくて、私はただただ交互に二人の顔を見比べた。
フェリオを見ても、泣きそうな顔をするだけ。
レオノーラを見ても、困ったような顔をするだけ。
「一つ、はっきりさせておこう。」
くつくつと、リジィは喉を鳴らして笑った。
「リズは呪術師。こちら側の人間だ。」
「――お前、何言っている?」