呪術師の娘

□五十一章 女心は不可解に
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 疲れた。
 私は弾む息を抑えながら山を登っていた。
 でも私がこの状態だということは、彼がそろそろ言うはずである。
 私からは絶対に言わない。
 ちょっとした私の意地。
 くだらないことだけど、足手まといと思われないためにはとても大事で。

 ぴたり、と彼の歩みが止まる。
 後ろに続いているレオノーラは、心配そうに彼の顔を覗き込んだ。
「疲れた。」
「はァ?」
 怒ったような、呆れたような形相でレオナールは振り返る。
「――私も。」
 ここで私も便乗した。
 するとレオナールは、何と形容すべきか。
 怒ってはいないけれど、眉間にしわが寄っていて、呆れてはいないけれど、どこか疲れたような目をした。
 元が良いのだから笑っていればいいのに、と、こういう時は思う。
「フェリオ、ここで休めるか?」
 するとフェリオはとても困ったような顔をした。
「ここはシルバーウルフの縄張りらしいですから。もう少し進みましょう。」
「わかった。」
 そう答えたのはリジィだった。
 珍しく聞き分けのいい。
 と思ったら。
 リジィはその場に腰を降ろした。
「リジィさん?」
 レオノーラがおどおどとした、不安そうな目でリジィを見る。
「リズ、結界張って。」
「え?」
 私は困惑してしまってリジィを見る。
 リジィの鉛色の瞳は真っすぐに私を見つめていた。
「私?」
「うん。僕は疲れたから。」
「あのなぁ。」
 レオナールは語気を強める。
 怒っている。
 フェリオがやや泣きそうな顔でおどおどとレオナールとリジィを交互に見ている。
「お前が休みたいんだからお前が張るのが筋だろ?」
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