呪術師の娘

□四十九章 影は夜と共に
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 低い音が聞こえる。
 聞いたことのある、リズム、音程。
 歌ではない。
 けれど、耳によく馴染む言葉の旋律。
 どこで聞いたのだっただろうか。
 私はうっすらと目を開ける。
 声の正体を探すと、窓際でリジィが本を開いていた。
 そして言葉を紡いでいる。
「――何してるの?」
 ぱたん、とリジィは本を閉じた。
「呪殺、」
「え?」
「の練習。」
 私は胸を撫で下ろした。
「そんな物騒な。」
 私はもぞもぞと寝袋から這い出る。
 窓の外ではまだ高い位置に月が出ていた。
「呪術師は遠距離からの時間をかけた殺人には無敵だけど、近距離から狙われたらあまりにも無力だからね。」
「――リジィ?」
 私は一瞬、リジィが何を言っているのか理解できなかった。
「だから様々な呪殺方法を試せば、一瞬で呪殺できる方法も見えてくると思うんだよ。」
「――意味がわからない。」
「リズ。」
 リジィはとても楽しそうに笑っていた。
 けれど目の奥の光はとても冷たい。
「呪術師はジョルジュ・ウォルターが現れるまでは被差別職だった。他の国では今もそうである場所が多い。」
 被差別職、という言葉自体、私は聞いたことがなかった。
 けれど、きっと言葉のままの意味なのだろう。
「なぜだかわかる?」
 私は首を横に振った。
「呪術師は殺すからだ。そっと、そっと、牙を見せずに、気づいたら殺されている。暗殺者よりももっと間接的に。」
「そんなことない。」
 私は、呪術が馬鹿にされている気がした。
 父が愛して、国も救った呪術。
 それを馬鹿にされるのは堪えられない。
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