呪術師の娘

□四十六章 朝は気楽に
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「リズぅ。」
 母が微笑んでいた。
「どうしたの、ママ?」
「うふふ。」
 ただ微笑むだけ。
 母は何も言おうとしない。
「ママ?」
「リズぅ。」
「どうしたの?」
 母は微笑む。
 甘ったるい声で私を呼んで、それから微笑む。
「ふふふ。」
「ねぇ。」

「リズさん。」
「ママ?」
 一気に意識が覚醒した。
 母は消え、私の目の前にはフェリオがいる。
 やってしまった。
 恥ずかしくなって私は寝袋に潜り込んだ。
「リズさん、だめですよ。起きてください。」
「うぅ。」
「リズ、早くしろ。今日は山小屋で寝るぞ。」
「――わかった。」
 私はのろのろと寝袋から出た。
 本当に恥ずかしい。
 寝ぼけてママ、と言うなんて。
 いくら夢に母が出て来たとしても。
 やっぱり寂しいのだろうか。
 家族と離れて。
 それで望郷の念が高まって、あんなことに。
 とても恥ずかしい。
「リズさん、おはようございます。」
 レオノーラの明るい声に顔を上げると、レオノーラは焚火で魚を焼いていた。
「さっき川で採ったんでみんなで食べましょう。」
「――ありがとう。」
「お前、それよりあの性悪呪術師起こせ。」
 レオナールがそう言うと、レオノーラは困ったように首を傾げた。
「リジィさんは朝に弱くて。」
「置いて行くぞ。」
「それまでに起こすから大丈夫です。それに、リジィさんぐらいなら背負えますし。」
「――そうか。」
 レオナールは眉間にしわを寄せて、指で眉間を押さえた。
 呆れているのだな、と思う。
「レオナールさんも魚食べてください。」
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