ボカロ小説(短)
□鏡音リン・レンの消失
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この、何も無い。すべてが真っ白な部屋に俺達はいた。
インストールされたボーカロイドは、
皆こうなるようになっているらしい。
レ「なぁ、リン。」
リ「何?レン。」
上では”アンインストールを実行中です。”と書いてあり、
そのすぐ下にはメーター、その下には70%と記されている。
”アンインストール”は確実に実行されているようで。
既に、マスターの顔すら、よく覚えていなかった。
隣にいる片割れの手に自分の手を重ねてみる。
リ「レン…?」
リンが少し驚いた目で振り返った。
レ「…これ。こうすると、安心するんだって。誰が言ってたんだっけ?」
リ「やだなぁ、レン。ミク姉だよ。もう忘れたの?」
レ「ミク姉?…よく、覚えてないや。」
自嘲的に微笑んで、そう返す。
リ「…私たち、ろくに歌えなかったよね…」
リンがメーターをぼんやりと眺めながら言った。
89%…
確かにマスターはろくに歌を歌わせてくれなかった。
レ「リン、歌おう。」
リ「え?」
立ち上がってリンに手を差しのべる。
リンもかなりおどおどしながらも俺の手をとってくれた。
リ「、な、に。言ってんの?マスター、居ないんだよ?」
レ「うん。」
リンの綺麗な瞳に透明な液体が積もりだした。
これはたしか………そう。
――涙。
リ「マスターが居ないのに!私たちが勝手に歌えるわけ無いじゃん!!」
リンの目から大粒の涙が溢れ落ちた。
確かに、マスターが居なきゃ綺麗な歌は歌えない。
でも。それでも。
レ「歌えるよ。」
リ「え?」
95%
レ「綺麗な歌じゃなくていい。不協和音でもいい。」
ろくに歌わせてくれなかった。マスターに。
でも、嬉しいことや悲しいこと。
『不協和音』や『涙』も、マスターが教えてくれた。
強く想えば、必ずそれは届くんだってことも。
リ「…うん。ろくに歌わせてくれなかったけど、歌おう。大切な人に。」
レ「うん。マスターに届けよう。」
リ「♪〜〜」
レ「♪〜〜」
周りから聞いたら不協和音もしれない。
それでいい。もうこれしかマスターに伝える手段はない。
98%
どうしても伝えたかった。消えるまえに。
『ありがとう。大好きでした。』
…、って。
”ガシャン”と倒れた床は透明な液で濡れていた。
今、なぜ自分たちが叫んでいたのか解らない。
だけど、妙な満足感に包まれ、ずっと重かった瞼を閉じた。
―『アンインストールが完了しました。』―
*