長編小説

□SPECIAL TALENT
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ベッドに机。古いクローゼット。生活に必要最低限のものしかない、殺風景な部屋に17歳の鼠色の髪の女の子が、出掛ける準備をしていた。
彼女は紅華(べにか)。この世界に住むノーマルだ。
ここは能力者だけが住む世界。
能力者とは普通の人間とは違い、自然の風や水、火など、自然を操る事の出来る人の事を言う。
しかしこの世界には、2種類の人間がいる。戦闘能力を持つ者≠ニ戦闘能力を持たない者≠セ。自然の力を操り、戦闘能力のある者をサイキッカー(能力者)と呼び、自然の力を操るが、戦闘能力のない者をノーマルと呼ぶ。この2種類だ。
そして、この世界には重宝される色がある。
それは紅蓮の紅(あか)、漆黒の黒、白銀の白の3色が重宝されている。
衣服や建物の色ではなく、人の髪や眼にその色が現れた時重宝される。主流の色は白で紅色と黒色はあまり現れる事は無く、珍しい。その3色の中でも紅色は一番重宝されている。
そして最も重宝されるのが紅眼(せきがん)。紅色(あかいろ)を持っている事事態、珍しく重宝される事なのだが、髪ではなく、眼になるとより珍しく重宝される。
その3色が重宝される理由は、その色の能力(ちから)はサイキッカーの中でも絶大な力を持っているからだ。

紅華は特に考える事もなく、目的地に向かい街を歩いていた。
街中に僧侶のお坊さんが念仏を唱えていた。
たまにいる。僧侶の持っている茶碗にわずかばかりのお金を入れて行く人もいる。そう不思議な光景ではない。
紅華は気にする事無く、僧侶の前を通り過ぎた。
その時、少し頭に痛みを感じた。
しかし、それはすぐに治まった。
紅華は多少疑問にも思ったが、気にせずに歩いて行った。
それを見ていた僧侶はニッと口元に笑みを浮かべた。
紅華の髪色は一瞬にして鼠色から黒色へと変化した。
紅華はその事に気付いていなかった。
僧侶はその場から立ち去った。

紅華は街中を走り回っていた。
鎧を着た兵士達に追われているのだ。
紅華自身理由はよく分からなかった。
だが、自分の髪色が鼠色から漆黒の黒色に変化している事に関係があるのは感じていた。
黒色はこの世界で重宝される7色のうちの1つだからだ。
ランドサイキッカーとして政府に追われているのだ。
街の人々は誰も助けようなどとはしない。政府に逆らえば自分達の首が飛ぶ。皆政府に恐れをなして見て見ぬ振りをして、目を閉ざすのだ。
(ノーマルだったのになんで突然…?あるとは聞いていたけど、まさか自分が?私には何の能力も無いのに…どうして?誰か、助けて)
紅華は困惑しながら必死に心の中で助けを求めながら走った。
「ああっ…!」
紅華は前から来た兵士と挟み撃ちにされた。
鎧を着た兵士達はじりじりと、でも確実に紅華に近付いて来た。
それがまた紅華の恐怖心を仰いだ。
紅華は体がすくみ、動く事が出来なかった。
一人の兵士が大きく一歩を踏み出した。
それが合図の様に兵士達は一斉に紅華に襲い掛かってきた。
紅華は思わず目をギュッと閉じた。
キィィィンと鉄と鉄の擦り合う様な音がした。
暫くして恐る恐る紅華が目を開くと、目の前には見知らぬ人達が、紅華と兵士達の間に立ちはだかり、兵士達と剣を交えていた。中には大きい斧を持った人や、ムチや剣、刀等の武器の人もいた。
「誰だ、お前等」
一人だけ異なった鎧を着たリーダー格の男が、邪魔された事に苛立って聞いた。
しかし、誰もその質問に答えなかった。
その時、紅華は両眼に激痛を感じた。
「!うぅっ…」
紅華は下を向いて眼を抑えた。
「うわっ、何ここ。破封文(はふうもん)唱え過ぎだし」
この周りの空気を感じて10代ぐらいの、薄い長袖、長ズボンの服を着た男の子が顔をしかめながら言った。
「ほんと、やめて欲しいねぇ、こういうの」
ヘソ出しの服に同じ色の膝より10pほど上の短い短パンを穿いた20代ぐらいの女の人が呆れた様に言った。
すると、その場に現れた見知らぬ人達の髪色と眼の色に変化が起こった。
パリパリと鏡などが割れるような音と共にその人たちの髪色は一般の色から、重宝される白色へと変化していった。
「あぁ…、あぁっ…」
紅華はその光景に驚き、数歩後退さって腰を抜かし、地面に座り込んだ。
「しかもこうやって封印解かれると、眼って凄い痛いんだよね」
20代ぐらいの緑髪の男の人が、やれやれという感じで言った。
すると、またその人達に変化が現れた。
次は眼だった。
パリンと割れる様な音がした。皆痛いのだろう。眼を少し閉じた。
しかし、慣れているのか、すぐに何事も無かったかの様に眼を開いた。
その眼は白色に変化していた。
リーダー格の男はそれを見て、とても不気味な笑みを浮かべた。
そして次には兵士達に命令ししていた。
”奴等を捕えろ“と。
紅華以外の人達が兵士達と戦闘を開始した。
その戦闘中に、陶器の様に綺麗な肌で顔の整った20代後半ぐらいだろうか、緑髪の男の人が胸の前にあった剣を右下へと振り下ろし、紅華の前に背を向けて現れた。
(誰…?)
紅華はその人の後ろ姿を見上げていた。
「ちょっと、来るの遅くない?もう来ないのかと思ったよ。まっ、いいや。さぁ、ボス。やっちゃってよ」
10代ぐらい男の子が、冗談混じりの言葉でその男に言った。
男は何も言わず、持っていた剣を地面に突き刺した。
すると、戦っていた兵士以外の3色の色を持った者達が身を引いた。
男はそれを確認すると、突き刺した剣の柄に手をかざした。
そして無言のまま、意識を集中させると、彼の周りには一瞬の大きな風が巻き起こった。
その瞬間、剣から円を描く様に地面が猛スピードで盛り上がった。
地面は陥没、地割れを起こし、物凄い地響きと共に凄まじい力の技が発動した。
一瞬にして、そこにいた政府達は皆息絶えた。
「………」
紅華は呆然としていた。
「行きますよ。此処は危険です」
男が剣を地面から抜きながら言い、歩き出した。
 「了解」
皆は返事をし、その男に付いて行った。
「ほら、あんたも行くよ」
ヘソ出しの服を着た女の人が、紅華に言った。
紅華が戸惑っていると、その女の人はじれったそうにして、紅華の手を掴んで一緒に連れて行こうとした。
 「えぇ…あのっ…」
 紅華は戸惑った。
 「行くよ。ここにいてどうすんだい?ここにいたって、また政府に追われるだけだよ。それに、襲われずに家まで帰れる保証もない」
紅華は、その言葉に反論が出来なかった。
確かにその通りだったからだ。
家に着くまでにまた、政府に追われる様な事があれば、次は確実に捕まるだろう。家へ帰れたとしても、政府なら居場所を捜し当てるなど、容易な事だろう。
すれば、皆に危害が加わるかもしれない。そんな事は嫌だった。
紅華は何も言えず、黙ってその女の人に手を引っ張られながら、その人達に付いて行った。
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