幻影の追跡

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「うわ……何か凄いな?ここ」
「確かに。ここ、何かヤバい感じもするっスね」


レッドが驚いた顔をしながらそう呟くと、近くにいたゴールドが同意する。
他の者も似たような表情を浮かばせるか、視界にあるそれを物珍しそうに見つめるかのどちらかしかない。



穴の奥へと進むと、そこには大きな祭壇らしい物があったのだ。神々しい何かを感じさせる傍らどことなく恐ろしさも感じられる。
そして、それを一番感じているとある人物は、辺りを見渡しながら落ち着きのない様子を見せていた。





「(……ここ、凄く嫌な感じがする。それに…ちょっと怖い……)」


悪寒を感じ、震える身体を無理矢理抑え込むようにしているカエデだが、それは中々治まってくれない。
それどころか、どんどん酷くなっているようだった。


「カエデさん…?」


ちょうど近くにいたサツキがカエデの様子がおかしい事に気付き声を掛けるものの、カエデは「何でもないよ?何でも…」としか言わず、そのまま黙り込んでしまった。
サツキがそんなカエデを見つめていると、カエデが持っている一つのモンスターボールがカタカタと動いている事に気付いた。


「カエデさん……そのモンスターボール、動いてますよ?」
「ボール…?」


サツキに指摘されて初めてその事に気付いたカエデは、ボールの中に入っているポケモンを外に出した。
そして、そのポケモンの名前を呼ぶ。


「イー?」
「……?カエデ、そのエーフィ……」


ツバキが疑問符を浮かばせながらカエデに問い掛けながら、カエデの手持ちの一匹である色違いのエーフィ。
基、イーの頭を撫でた。


「ああ……この子は、4年前に旅してた時にスイクン達から預かった、って言えばいいのかな?とりあえずそんな感じで貰ったタマゴから孵ったんだよ」
「……怯えてるな」
「うん…」


頭を撫でて初めて分かった事。
それは、イーの身体が僅かながら震えていて、その上何かに怯えているかのようにどことなく落ち着きがない事だった。
落ち着かせようと頭を撫で続けるが、逆にさらに緊張感が高まってしまっている。


「でも、どうして?イーは普通のエーフィよりも敏感だけど……この子がこんなに怯えるなんて、初めてだ」
「……何かがここにいるのだけは、確かみたいですけど」


辺りを見渡しながらそう呟くシランを見ながら、カエデとツバキはそのまま黙り込んでしまう。
――すると、次の瞬間ツバキの持つ一つのモンスターボールがカタカタと動き出し、中からポケモンが出て来た。
ツバキは驚きながらそのポケモンを見る。


「ちょ、ブラッキー!お前までどうしたんだよ…?!」
「……興奮しているな。それ程のモノがここにあるというのか…?」


ボールから出て来たブラッキーに驚くツバキ。そしてブラッキーを見ながら呟き、辺りを警戒するかのように見渡すグリーン。
緊張感が高まる中。
皆の後ろから何か音が聞こえて来る。
じゃりじゃりと砂を踏んでいるかのような音。それを聞いていると、闇の中から一人の男が現れた。
灰色の髪に赤い瞳。そして、漆黒に染まったスーツに身を包んでいる。
無言で彼らを見つめる男にカエデは静かに問い掛けた。


「………あんた、何者?こんな所にいったい何の用だ」
「…………」
「……答える気はさらさらない、って所かしらね」


モンスターボールを手に持ちながら問い掛けるブルーだが、それでも男は答えない。
それどころか、まるで他の者は眼中にないと言わんばかりの雰囲気を放ちながらカエデを見つめたままだ。


「(何も喋らないとか、物凄く嫌な感じするな……)何とか言ったらどうなんだ」
「……………やっと見つけた」


それまでずっと黙ったままだった男が突然口を開いた事に軽く驚いてしまい、全員思わず息を飲んだ。
が、男はその事を気にせずにカエデを見つめながら呟いているだけ。


「やっと、見つけたぞ」
「ぇ……まさか、それって私の事…?」
「…………嘘」


男の言葉に戸惑いを隠せずにいるカエデだったが、不意に後ろに立っていたモミジの言葉に反応し振り返る。
すると、視線の先にはモミジが今までに見せた事のないほど青ざめた表情を浮かばせていた。


「ね、姉ちゃん。どうしたの……?」
「嘘よ……だって、何で今頃になって…………?!」
「……モミジ。あいつの事を知っているのか?」


グリーンがそう問い掛けるものの、モミジはそれに答えず男を凝視するばかり。
全く状況が読めない一行は、男とモミジ。二人を交互に見つめる事しか出来ない。
その状況に耐え切れなくなったカエデは姉の元に駆け寄り、強く問い掛けた。


「姉ちゃん、この男が誰なのか知ってるんだろ?知ってるなら教えて!」
「そ…それは………」


強く問い掛けられてもモミジは答えず、ただただ戸惑っているかのように見える。
そんなモミジを様子にカエデは苛立ちを感じながら、今度は男に対して睨むような眼差しを向けた。


「あんた、いったい何者なんだよ!!」
「…………父親よ」


空気が音を立てて固まる。
そして、上手く動かない身体を無理矢理動かしてカエデは再び振り返った。


「ぇ……」
「カエデ…あなたのお父さん。そして、私にとっては義理の父親にあたる人……」
「ちょっと待って……私の父親って…………それに、義理のって………」


言っている意味が分からない。
言葉ではなく、表情でそれを表しているカエデだが、モミジは何も言えずに視線を反らしてしまう。


「この人が…………父さん……?」




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