小説1
□空っぽの日焼け止め
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「 はあ、 」
今日もグラウンドを見て憂
鬱になる。二宮くん、白い
なあ。毎日毎日、野球をし
てるのに、何故、あんなに
白いんだろう。私は、地黒
だし、なにもしてなくても
こんなに黒いのにな、そう
思いながら、自分の右の腕
を宙に浮かべて見てみる。
「 やっぱり、黒い 」
そう嘆きながら、いつもの
ように、日焼け止めを顔か
ら足まで、塗りつくす。
「 あれ、 」
容器を押して出てくるのは
プシュプシュという、実に悲し
い音だけだった。あーあ、
またなくなっちゃったよ、
これで、今年に入って何本
目かな、?5本目だったっ
け?、いや6本目だ。高く
て効果の強い日焼け止めを
使ってるから、勿論、中学
生である私には、出費がも
のすごく痛い訳であって。
『 黒い子、好きじゃないって 』
そんな噂を聞いたのは、2
年生の時だった。それまで
日焼けなんて全くといって
いいほど気にしていなかっ
た私だけど、次の日からは
日焼け止めを塗って、暑く
ても長袖、長ズボンにして
出来る限りの対策はしてき
たつもりだ。それでも、ま
だ二宮くんよりも、全然黒
い。あーあ、日焼け止め無
くなっちゃったし、ほんと
にどうしようかなあ。空に
なってしまった容器を、適
当に鞄に突っ込んで、机に
べたーっともたれかかった
;
「 なまえさん、 」
聞き覚えのある声がして顔
をあげと、そこには、大好
きな二宮くんの姿があった
「 に、二宮くん、! 」
「 まだ残ってたんですか? 」
「 あ、うん。 」
「 丁度よかった、! 」
「 へ、? 」
「 一緒に帰りません? 」
二宮くんは、真っ黒になっ
た、ユニフォームと帽子を
身にまとっていた。でも、
二宮くんの笑顔輝いていた
確か、同じ方向だった気が
しますし、って、二宮くん
は、私の鞄を持ち上げた。
「 え、ちょっと! 」
「 あ、嫌でしたか? 」
って、二宮くんが眉毛を下
げて私に言う。勿論、断る
理由なんて、何1つないの
だけれど。だけど、一緒に
帰るだなんて心臓が破裂し
てしまいそうで。今のこの
状況だって緊張してるのに
ああ、もう!このうるさい
心臓、おさまってよっ、!
「 なまえさん、」
「 な、に? 」
「 嫌って言っても一緒に帰りますよ 」
「 え、? 」
「 もう遅いですし、 」
こんな時間に女の子を1人
で帰す訳にはいきませんし
って二宮くんは私の鞄を担
いだまま私の手を引いた。
「 二宮くん、あの、私 」
「 俺さあ、 」
「 なまえさんの事好き、 」
「 へ、? 」
「 好きです、 」
二宮くんは、立ち止まると
振り向いて、そう言った。
私にはその言葉の意味を理
解する事ができなかった。
「 2年の時からずっと、 」
「 うそ、 」
「 本当ですって、 」
「 二宮くん、ちょっと腕、 」
「 、やっぱり、白い 」
「 え、? 」
「 やっぱり私の方が黒い、 」
「 どうして、 」
「 二宮くん、黒い子嫌いって 」
「 え、そんな事言ってませんよ? 」
「 え、 」
「 俺は黒くたって白くたって、 」
なまえさんが好きです、
二宮くんがそう言ったのと
同時に、私は二宮くんの腕
の中に収まっていた。なん
ていったらいいのかわから
なくて暫く黙っていると、
二宮くんが私に問いかけた
「 なまえさんはどうなの? 」
「 わ、私は 」
「 私は、? 」
「 私も二宮くんが好き、 」
「 やった、! 」
二宮くんの私を抱き締める
力が少し強くなった。少し
だけ苦しくなって上を向く
と、ばっちり目があって。
私は、二宮くんの綺麗なセ
ピア色の瞳から、目をそら
す事が全然できなかった。
「 なまえさん、 」
「 は、い、 」
「 もう日焼け止めいいからね、 」
「 あと、長袖、長ズボンも、 」
「 二宮くん、? 」
「 もう必要ないでしょう? 」
「 なんで知って、! 」
「 当たり前でしょう、? 」
「 だてに片想いしてませんから、 」
そう言った二宮くんの耳は
凄く真っ赤に染まっていた
私は、もの凄く嬉しくなっ
て、思わず笑みを溢した。
「 やっぱ、かわいい 」
「 え、 」
「 何でもないです、 」
「 気になる、 」
「 じゃ、帰りますか、 」
「 ちょっ、二宮くん! 」
「 あ、 」
「 え、? 」
また二宮くんが、急に立ち
止まって。二宮くんが指差
した方を見る。でも、指を
差し方には何もなくって。
「 何にもないじゃ(ちゅっ) 」
「 に、のみやく 」
「 んふふ、ごちそうさまです 」
二宮くんは満足そうに笑っ
てまた歩きだした。私ら、
何が起きたのかわからなく
って、暫くポカーンとして
いると、左の手の平が二宮
くんの右手と重なっていた
「 いきますよ、 」
「 う、ん 」
また、私の心臓がさっきみ
たいに、五月蝿く動いた。
空っぽの日焼け止め
( 私の心は満タンです )
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