小説1
□真夜中しゅがー
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――――ピンポーン
寝ぼけた頭をフル回転させ
状況を飲み込むまで約1分
重たい足を引きずりながら
玄関へのそのそと向かう。
「 こんばんはー、! 」
「 ―――…、ねぇ 」
「 なによ? 」
「 今、何時だと思う? 」
「 夜中の1時、! 」
「 帰ってください 」
ドアを開けると、そこには
紛れもなく元彼の和也の姿
があって。無理矢理ドアを
閉じようと心見るも、そこ
には既に、和也の足が挟ま
れてて。思いっきり閉めち
ゃったらいいんだろうけど
コイツだって、一応アイド
ル。千歩譲っても、いや、
1万歩譲っても、コイツは
今をときめくスーパーアイ
ドルな訳で。そんな事、私
になんか出来るはずもない
「 腹減った、 」
「 彼女に作って貰いなさいよ 」
別れたきっかけは和也の浮
気だった。別に、悲しくな
んかなかった。元々、一般
人の私が和也と付き合うな
んて、そんなの、地球上の
奇跡が10個位重なっちゃ
ったんじゃないか、って思
うくらいの確率な訳だし。
「 別れた、し 」
「 は、? 」
そんなの狡い、心の何処か
で少しだけ期待してたけど
「 ハンバーグ食べさせてよ? 」
生憎、夕御飯はハンバーグ
で。どうして、こうも上手
くいってしまうんだろう。
「 温めるから、座ってて 」
結局、最後に負けてしまう
のは、私の方で。和也に敵
うはずなんて、最初から、
これっぽっちもなかった。
「 ん、 」
はあ、と大きなため息をつ
いて、いつもの定位置に座
って和也を見ると、私が大
好きな笑顔でハンバーグを
大きな口で頬張っていた。
懐かしいなあ、この感じ。
急にあの頃が恋しくなった
「 なまえ、ごめんね、 」
「 気にしないで、 」
「 やっぱ、なまえの
ハンバーグが1番うまいや、 」
私が作ったハンバーグなん
て、片手で数えられるくら
いしか食べことないのに。
「 そう、 」
「 あ、コーヒー飲んでいい? 」
「 別にいいけど、 」
私の返事を確認して和也は
立ち上がった。何処にコー
ヒーカップがあるかなんて
教えなくても、すぐに見つ
けて。それは、私と和也が
そういう関係だったから。
3ヶ月記念に、と買った、
お揃いのコーヒーカップも
まだ捨てられてなかった。
「 なまえも飲む、? 」
「 とびっきり甘いのをお願い 」
それは、私が、まだ和也を
忘れられてなかったから。
真夜中しゅがー
( それはそれは、甘い夜でした )