朝靄に煙る、通い慣れたいつもの駅。
ホームの右端に立ち、君と過ごした日々を想っていた。
誰よりも…
何よりも愛しい君。
いつだって君を想ってた。
“ひとりにしないで”と泣いたあの夜、君はいつもより少し幼くて。
本気で守りたいって、そう思った。
だけど俺は、自分が思うより弱い人間で。
その弱さに、現実に、抗う術もなく。
離れることで、君の未来を守れるのなら、俺の未来なんかどうなったってかまわない。
そう言って逃げる俺を、単なる言い訳だと蔑んでくれて構わない。
だからどうか君は、君だけは…
幸せになってほしい…
親父から譲り受けた古い一眼レフのカメラと、フィルムを何本か詰め込んだ小さな黒い鞄。
俺の行く先を知る唯一の共。
時計に目をやる。
秒針が後一周もすれば長針と短針が重なる。
もうすぐ始発が来る。
『間もなく電車が到着します。白線の内側に───』
滑り込んできた電車に乗り込む。
想いも、君も。
全部ここに置いてけぼりにして。
連絡もできず旅立つ、臆病な俺だけど。
いつか解ってくれるだろう。
君を残したワケを。