響 冬馬

□夜明けに見送られて
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朝靄に煙る、通い慣れたいつもの駅。

ホームの右端に立ち、君と過ごした日々を想っていた。



誰よりも…

何よりも愛しい君。

いつだって君を想ってた。



“ひとりにしないで”と泣いたあの夜、君はいつもより少し幼くて。

本気で守りたいって、そう思った。



だけど俺は、自分が思うより弱い人間で。

その弱さに、現実に、抗う術もなく。



離れることで、君の未来を守れるのなら、俺の未来なんかどうなったってかまわない。

そう言って逃げる俺を、単なる言い訳だと蔑んでくれて構わない。

だからどうか君は、君だけは…



幸せになってほしい…





親父から譲り受けた古い一眼レフのカメラと、フィルムを何本か詰め込んだ小さな黒い鞄。

俺の行く先を知る唯一の共。



時計に目をやる。

秒針が後一周もすれば長針と短針が重なる。

もうすぐ始発が来る。



『間もなく電車が到着します。白線の内側に───』



滑り込んできた電車に乗り込む。



想いも、君も。

全部ここに置いてけぼりにして。



連絡もできず旅立つ、臆病な俺だけど。



いつか解ってくれるだろう。

君を残したワケを。


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