□蝋燭+鸚哥+金庫
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カツン、カツン、と地下の廊下に靴音が響く。それに合わせるように皿が擦れて異質な空気を漂わせている。


冷たく暗い中に静かな炎を灯して長身の男がやってきた。




「珍しい客が現れたもんやなぁ」



鉄格子越しに高い男の声が彼に話しかける。靴音が止まり、その主のシェフは顔のみ相手の方を向いた。


「薄汚いネズミはどうしたん?またヘマして怒られに来るかと思ったわ」



「あいつは今孫に手を焼いている。まだここには来ない」



軽い調子で話す男、インコとは対象的にシェフは淡々と返答を述べる。




「そりゃええ事やないかい。暫くはあの阿呆の顔見んですむんやな」



ケタケタと笑いながらインコは無意識の内に右手を動かした。



「そんで?あんさんはなんでここに来たんや?」



葉巻が火を灯し、煙が上がったのと同時にシェフの炎が大きく揺れる。


「モクモク嫌い……」


「は?なんやまたその話かいな。しゃーない、ほなはよ起きぃや阿呆」



傍らで眠りこけているキンコを足で小突く。

「どうしたんだな〜。あれ〜?珍しいお客さんがいるんだな〜」


大きいだろう目を半分だけ開けて、周りを見渡す。起きろ、と隣で喚いているインコには特に気にならないようだ。




「ノースモーキング〜〜!!」



鉄格子がシェフの包丁によっていとも容易く切り開かれた。


「あーー!何すんの自分!!鉄格子ワイらで直さなアカンやないかい!!!」



「タバコは料理の敵〜〜!!!」


「タバコやないわ!これは葉巻や!!よう見てみい!!!」



ギャーギャーと反論するインコとお構い無しに身の丈ほどの大包丁を振り回すシェフの狭間で、キンコは瞼が重力で下がりそうなのを必死に堪えていた。


「ノースモーキング〜〜!!」


「丁重にお断りしますわ!」




身を翻して一目散に逃げ出したインコ。


「インコは絶対に禁煙できないんだな〜」


キンコも力果てて動かなくなり、微かに規則正しい寝息が聞こえてきた。




「タバコは料理の敵〜〜…」




身の回りに充満した煙を払うように、包丁が空を切る。



「料理、届けに行く……」




靴音と皿が擦れる音がだんだんと遠ざかっていき、ついにはいつもの静寂な地下へと戻っていた。







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