□木乃伊父×蝋燭*
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…私が見たいのはこんな顔じゃない。


「次は貴方からも来て欲しいですな」


片手で彼の襟のボタンを外すと、普段見えない口元までも見える。
彼の顔のパーツ総てが整っていて、まるで造られた蝋人形の様。
肌さえも異常な程白すぎて病人みたいだ。


「丁度貴方に合った薬がありますから」

側にあった机の引き出しから茶色い小さな瓶を取り出した。

彼の眼前にそれを示したのだが、反応は自慢料理の話から薬は調味料になるという話に変わっただけだ。

半ば予想していたのでそれには驚きはせずに、持っていた瓶の蓋を外しその中の液体を口に含んだ。
私より少し背の高い彼の首に腕を回し、抵抗するのも構わず強引にそれを流し込む。


「いかがですか?」


そう問いかけるも彼の様子に変化はなかった。

やはり効力が弱かったのだろうか。

その考えは杞憂に変わり、彼は僅かに顔を歪めて包丁を持っていた手が痙攣し始めた。

「…っ、」

彼の唇が何かを言おうと動いたが、また閉じて奥歯を噛み締めたような表情をする。


「おやおや、まだおかわりも他の薬もまだ沢山用意してありますから、どうぞ寛いでいくといいですよ」


彼の左腕を引き、紫がかった炎を灯すコック帽を取ってベッドに誘導させるとその勢いのまま彼が無機質な布団に倒れ込んだ。
顔にかかった長めの横髪で表情は読み取れなかったが、シーツを握りしめるのを見て彼の意識がある事を確認した。


「私の方は…まだ血が止まってませんな」

少し歪んだ笑顔を浮かべ、グレーの上着を脱ぎそれと彼の帽子を机の上に置く。
包帯を取り出し包丁を一気に引き抜くと先程よりも大量の血液が流れ出てきた。
急いで包帯を巻き、通常の倍きつく結ぶ。

…流石の私でも、これ以上血を失ったら倒れ兼ねないのだから。


やっと動きやすくなった身体で寝台の中にある薬箱を手に彼に跨がった。


「シェフ殿は錠剤と散剤、どちらがお好みですかな? それともまた液剤にしましょうか」


ゆっくりとした口調で笑いかけた。

下にある白い生地が私の流す血の色に染まっていく。
それでも彼は強い眼差しで、おそらくは淀んでいるだろう私の眼を睨んでいた。


そんな表情で私を見ないで頂きたいですな……


苦笑気味に小さくそう呟いた。



(サディスト・ルーム)

私は貴方の料理も、その表情も愛しすぎて堪らないのですから。



.→後書き、お題提供元
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