文
□木乃伊父×蝋燭*
1ページ/3ページ
※Dキス、暴力表現有。お題使用。ジェームスが仕掛け人として登場します。
「ねぇねぇ、おじちゃんって結構タフだよね」
口角を上げて笑うのはグレゴリーさんのところのお孫さんだ。
坊やはお友達と遊びに行って私たちの部屋にいない今、この子がどうして訪ねてきたのかは特に気にするつもりもない。
「いやいや、私はいつも、頭痛に悩まされておりますよ」
そう言って豪快に笑って見せると彼は少し目を見開いたかと思うとすっ、と細めて品定めでもするかのように私を見上げる。
「ボクにはそう見えないんだけどな」
ポケットを探りながらそうだ、と話を紡いだ。
「おじちゃんこれ声に出して読んでみてよ!」
そう言って渡された紙。其処にはたった一行の、子供が書いたような文章があった。
「“シェフの作った料理は食べたくない”…?」
私はそうは思いませんけれども、と自分の意見を言ったのと同時に背後にあった扉が勢い良く開いた。
「俺の料理を侮辱する奴、許さない〜…!」
一番に目を惹いたのは鮮やかな、赤。
頭上の業火は入口の枠を掠めて焦げ跡を残し、血走った瞳は私の目を捕らえたまま放さない。
視界の端に何かが光ったのが見えた。
それを確認しようとした刹那、彼が目の前に“迫った”。
確かに彼との距離は狭くなったと思うが、その間合いを維持したまま、背中が壁に押し付けられたようだ。
「カッコイ〜! シェフのおじちゃん今日は串刺しなんだね!!」
隣で子供が無邪気な声を上げる。
“串刺し”…?
はて、と首を傾げる。シェフは串刺しなど持っていただろうか?
さっきと変わった事と言えばシェフとの距離が縮んだ事と、足に生暖かい液体がかかっている事だけだ。
他には何が……。
シェフがまた少し近付いた。
逸らす事のなかった瞳が僅かに翳り、眉を潜める。
「どうしたのですか、シェフ殿?」
「……やっぱりおじちゃんはタフだよね」
不思議に思って掛けた言葉には彼の代わりにグレゴリーさんのお孫さんが応える。
そして嬉しそうにはしゃいだ後部屋を飛び出していってしまった。
一体何があったのだろう?
シェフの心臓の音さえ聞こえてきそうな距離にまでなり、堪えきれそうになくて俯いた先。
彼がいつも持っていた包丁が私の腹部に突き刺さっていた。
…漸く今の現状を理解し、もう笑いを抑える事ができなかった。
「シェフ殿?」
もう一度、今度は目だけを彼の方に向けると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をして引き下げようとした腕を、即座に掴んだ。
「私はシェフ殿の料理は好きですよ。 特に、ミイラ風ドリアなんて毎日でも食べたいぐらいです」
「……また、食べにこい〜…」
さっきの暴言が嘘だったのが分かるや彼はいつもの無表情になった。
.