□猫→少年←車
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※ネコゾンビ視点。お題使用。BOYはでてきません



ギィィ、と錆びた扉の悲鳴が室内に響いた。

それはまるでさっきまでいた温もりを手放したくなくて、引き留めたくて鳴いた様。

そんな声も彼には伝わらなくて、虚しく外の世界から隔離された部屋。

…部屋なんてものじゃなくて、此処はただの牢屋だ。


見上げると鉄格子越しに月が輝いていた。
その光が眩しくて、見ていられなくて…また俯いた。


「お腹空いたニャ…」


この言葉は半分本当で半分嘘だ。

飢えているし、満たされない想い。

けれど言いたかった言葉は……呼びたかった名前は……───



「相変わらず仲が良いですね……彼に信頼されてるとか、羨ましいなァ」


窓の向こうから聞こえた声は僅かに嬉々としたものだったが、それでもやはりボクと同じ諦めの感情が混じっている。


「キミも盗み聞きが趣味なのかニャ…?」


「いえいえ…私は見ての通りドライブが趣味ですよ」

クスッ、と声の主が笑った。
もう一度見上げた月は幽かに紫煙を燻らしている。


「ボクはキミの姿を見た事がないニャ」

「でしょうねェ…私も貴方を見た事がありませんから。 何と言っても、貴方がこの屋敷の外に出る事をしなければ合う事は永遠にありませんよ」


肺にあった煙も一気に全部吐き出したのか、月の輪郭が分からなくなった。

それでもまだ、月は輝きを失ってはいない。


「もし彼がこの屋敷の外に出る事ができたら、彼をキミの手で助けてあげて欲しいニャ。彼はボクと違ってまだ現実の世界に戻る事を諦めてないニャ」


「………」


返ってきたものは沈黙だった。

否定でも肯定でもない。

いやに静かな時間が続いた。相手の姿が見えない今、頼りになるのはタバコの煙だなんて、どんなに不安定なものなんだろう。
それさえもだんだんと薄れていくなか、漸く窓の向こうから返事がきた。


「どうでしょうねェ……私は貴方とは似ていますから…伸ばした手しか、掴む事はしませんよ」


タバコの火をもみ消した音がした。
喩えようのない虚しい音。


「しかしながら私も貴方と同じ想いですよ。 ずっと羨ましかった……彼が、ね」


また嬉々としていて、それでも諦めたような声音で言った台詞を残していなくなった後。

月は前と変らず一点の曇りもなく輝いていた。


「お腹空いたニャ…」


枯渇と願望を秘めた言葉。



(少しだけ焦がれた死に方)

ボクたちはどこまで似ているのだろう?
結末が分かっていても、それでも彼に惹かれてしまう。



.→後書き、お題提供元
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