□孫鼠→少年
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※孫鼠視点

何か面白いこと、ないかなぁ…


ホテル内の廊下のど真ん中を大股で歩いていく。
そうすれば偶然面白い現場に出会したり、今までやったことのない新しいイタズラを思いつくかもしれない。
でも本当の目的は最近入ってきた新しい玩具を見つけることだ。
昔はおじーちゃんやキャサリンおばちゃんの驚いた顔、怒った顔が面白くてイタズラをしていたけど、アレはその存在自体が面白かった。
どこにいるんだろうな、ボクの今一番のお気に入りのあの人は。


105号室の部屋の角を曲がると廊下の窓から朝の光が差し込んでいた。
明るいその場所とは逆に奥の方は薄暗く、診療室の前に踞る人影が見えた。
──あの人だ。
そうだという保障はないが、確信はある。ボクがあの人と他の狂った住人とを間違える訳がないだろう?
走り出したい気持ちを抑え、足音を立てないようにゆっくりと彼に近づいた。

「ねぇねぇ!」

そうやって声を掛けると彼は電流を流されたんじゃないかってぐらいに身体を大きく震わせた。
限界まで見開いた青色の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、小首を傾げて無邪気な子供を演じてみせる。

「何やってんの? のぞき?」
「あ、いやそのッこれは…──」

言葉を詰まらせ目をひっきりなしに泳がせている様は、怒られている時に言い訳を考えているおじーちゃんと同じで面白い。──まぁこっちの方がずっと可愛いけど、ね。

『何かしら?』

扉の向こうからキャサリンおばちゃんの声が聞こえてきた。それにまた彼は驚いて、焦りと恐怖の色を孕んだ表情を浮かべる。

「逃げなきゃ…っ、」

そう言うなり彼はボクが来た道とは反対側の廊下を走り出した。ガチャリ、とフロントに続く扉と診療室の扉が開く音が重なる。ボクの目の前には彼が恐れたキャサリンおばちゃんが現れたけれど、ボクにとっては楽しみを引き立てる重要な人物だった。

「待ってよBOYおにーちゃん! 一緒にキャサリンおばちゃんを驚かそうって約束したじゃん!!」

彼の後を追いかけながら大声で話しかけると前からは「そんな約束してないよ〜!」って今にも泣きそうな声が、後ろからは「何ですって!?」という怒りに満ちた声がした。
食堂を越えて閉じかけた扉を押し開ける。キャサリンおばちゃんの追いかけてくる足音と声はお化け屋敷なんかじゃない、崩れていく橋みたいな恐怖体験。
ボクはともかく彼は捕まったら最期だね。



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