□少年×猫
2ページ/5ページ


「──だからここにいればいつか自分がおかしくなってしまうんじゃないかと思って…。」

今日もまた、彼は僕の部屋を訪ねて来てはここの住人の異常性についてを話す。

「早く現実の世界に戻りたい……。」

彼のその言葉に心臓が締め付けられる。
それがあまりにも苦しくて、僕は彼の膝に倒れ込むようにして頭を乗せた。
彼は少し驚いたようだが、すぐに足を伸ばして僕の行為を受け入れてくれた。

「ごめん…こんな毎日愚痴を聞かされたんじゃ君の方が嫌になるよな……。」

「違うニャ。」

頭を撫でる彼を見ると辛そうな瞳をしていた。それでも彼は無理して笑っている。

「ただこうやってみたかっただけニャ。前のご主人様はよくこうやってくれた…。」

「そうか……。」

彼の呟いた声はさっきよりも穏やかに聞こえた。
その後は何も言わずにただ僕の頭を撫でているだけで、それが少し気が引けた。

「現実に戻りたいのかニャ…?」

顔を横に向けたまま、彼の返事を待った。

「…あぁ。」

「それがすごく辛いものだとしても…君は現実に戻りたいのかニャ…?」

「あぁ……戻りたいよ、現実に。それがたとえ辛いものだとしても、あそこには大切な家族がいるから…。」

彼は本当に精神力が強いと思う。誰にも彼の意志を変えることができないような気がする…もちろん僕にも、……。

「ここの住人はいつも同じ行動をとっているニャ。彼らに会いたくないなら彼らの行動パターンを把握するニャ。そしたらきっと…脱出する機会が訪れるはずニャ。」

彼の方を向き、笑顔を作る。

「僕ハ君ガ現実ニ戻レルコトを祈ッテルニャ。」

「…ありがとう。」

彼は嬉しそうに微笑んだ。
その顔を目に焼き付けて、顔を彼の腹に埋めた。逃がさないように腰に手を回して小さく呟く。

「だから今は…もう少しだけでいいから……このままでいさせて欲しいニャ。」

彼は頷き優しく頭を撫でてくれた。



.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ