文
□蝋燭→魚
1ページ/2ページ
※蝋燭視点
コツ…コツ…
地下に自分の靴音が響く。
今日もママの食事を届けに行かなければならない…
「やれやれ…毎日ママの機嫌をとるのも楽じゃないわい……。」
そう言いながらグレゴリーは階段を上っていった。
最近あの新しい客のせいでママの機嫌は悪く、食事中でも愚痴が絶えない。正直言って黙って食べてもらいたいが、あのママに逆らったら後が恐そうだ。
小さく溜め息をついてから地下1階の東側に続く扉を開こうとした時、異質な音が聞こえた。
空耳かと思ったがやはり聞こえた…水の、音……。
急いで西側に続く扉を開くと、廊下の先にはぼんやりと青白く光るものが見えた。
「魚……。」
1歩、それに近づくと相手もその音に気付いたのか振り返り、俺の姿を見ると慌てて奥へと逃げて行った。
魚とすれ違いに審判小僧がお気楽な歌を歌いながら近づいてきた。
「ジャッジメー――ン!」
奴のでかい声と轟音が地下に響き、煩わしいくて顔をしかめる。
だがそんなことにはお構い無しに奴は勝手に語り始めた。
「君は恋をしているね。 だがそれは叶わない恋だ。相手が悪すぎる。」
その言葉に持っていた洋出刃包丁を強く握る。
「そんな叶わない恋をしている君に恋をしている人がいる。その人はすぐ傍にいて君の全てを受け入れてくれるだろう。 さぁ…君は今の恋を諦める?それとも新しい恋をする?」
にやりと笑う顔の前に包丁を突き付けた。
「食材にされたいか……。」
審判小僧を鋭く睨むとその顔は狼狽し笑みが中途半端なものになった。
「僕も相手が悪かったようだね…。」
そそくさと逃げる奴の背中を追い、見えなくなってから漸く包丁を下ろした。
踵を返し扉を開けた時、ふと視界の端に青白い光とそれに照らされた審判小僧の姿が写った。
バタンという音を聞き、また一つ溜め息をつく。
俺からは逃げるくせに……。
いつかきっと、あの魚を手に入れてみせる。
そのためには手段を選ばないつもりだ。
「ははは……。」
その時の瞬間を想像しながら俺は最初の目的地へと歩を進めた。
→後書き