※暗いお話です。
苦手な方はリターンプリーズ!読んでからの苦情は受け付けません。
三歳の秋、妹が生まれた。
それまで自分が抱かれていた母親の腕を奪われたことに戸惑いはあったが、その小さな紅葉のような手の平に、愛らしい微笑に、ルルーシュは一目で夢中になった。
ナナリー、と、名付けられた、可愛い妹。
母マリアンヌはルルーシュ一人のものではない。父皇帝や数多くの皇兄姉の信望を集めている上、国民の愛を一身に受けている。
正直それを寂しいと思わないルルーシュではない。けれど、ナナリーは違う。
(ナナリーは僕だけの妹なんだ)
腹違いの兄弟はたくさんいたけれど、同じ血を分けた妹はナナリーだけ。
優しい色合いの産着に包まれた赤ん坊を、ルルーシュは危なっかしい手つきで抱き上げる。
まろい頬に頬を寄せれば、くすぐったそうに身をよじる、妹。
一生懸命に妹をあやすルルーシュに、マリアンヌは穏やかに微笑んだ。優しい母親の表情を浮かべて、息子に囁く。
「ルルーシュ、ヴィ家の血を分けた、貴方の妹よ。立派なお兄様になってね」
「は、はい、お母様…っ」
母親の瞳に浮かんだ酷薄な微笑に気付かず、ルルーシュは何度も頷き返した。
その日から、兄妹はいつも一緒だった。
ナナリーがぐずついたら侍女よりも先に駆け寄って、両手に抱いて泣き止むまであやした。ルルーシュはゆりかごの側から離れようとしない。
四つ違いの妹に、少年は夢中だった。
ナナリーが最初に覚えた言葉は、父や母ではなく「お兄様」。
マリアンヌは「凄いわね」とルルーシュの頭を撫でてくれたが、自然に覚えたのではない。
ゆりかごの側に寄り添って、何度も繰り返し覚えさせた、単語。
お兄様、お兄様、お兄様。
僕が君のお兄様なんだよ、ナナリー。
「おにいさま、おに、ちゃま」
妹が笑顔でそう呼ぶ時、ルルーシュの胸には喜びが溢れていく。
僕のことしか知らない。僕だけを呼ぶ、妹。
彼女の為なら、どんなことでもやり通せる。なんの変哲もなくて、穏やかなだけの日常が、輝いて、馬鹿みたいに生きる力が沸いて来る。
だから、ナナリー。お兄様と呼んで、もっと笑って、一緒に過ごして、愛していると言って、十年先も綺麗な場所にいて。
今まで、飽きて、捨てただけの玩具とは違う。生まれて初めて、彼は大切な人のために何を出来るかを考えた。
「おに、ちゃま、おにいちゃま」
「まあ、ナナリー。お兄様はもう少しで帰ってきますよ。この子ったら、本当にルルーシュのことが大好きなんだから」
覚えたばかりの言葉を繰り返す幼児に、マリアンヌは愉しそうに笑う。本当に、眩しいほどに仲の良い兄妹だ。
危なっかしい足どりで母親の先を歩く、幼女。
お兄様、お兄様。
無邪気にそう繰り返す少女にとって、それは魔法の言葉。
その名前を呼べば、願い事はすべて叶うのだと、彼女は既に知っていた…。
あいは放たれた
(君が狂わせた僕の執着)
END
ヴィ兄妹
※以下はダラダラと考察しています。読んでからの苦情はお止め下さい。
ナナリーって、兄に自分の人生を決定されてしまったという悲哀と、自分は兄に愛されて当たり前という傲慢さを感じます。
私だけでしょうか?