第2回謙光祭

□自己満足
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14.自己満足(謙光)


「光、お疲れ!」

部活を終え、学校から出て来た光に声を掛けた。
そろそろ寒くなってきた12月。年が明ければ、いよいよ本格的に受験体制に入る。
夏に部活を引退した俺は、まだ暑い時期はコートに入り浸っていたものの、さすがに涼しくなり始めてからは受験勉強に専念するようになった。
とは言っても、塾に通うとか家庭教師を雇うとかしているわけではない。中1の頃から将来を見据えて勉強はしてきたから、今更焦ることもない。
図書室は勉強するにはうってつけの場所だが、静かすぎて俺には落ち着かない。だから、授業が終わったら家に帰って、小春が組んだスケジュール通りに勉強した後、光を迎えにもう一度学校に戻って来る。

「謙也さん、わざわざ迎えに来んでもええですよ」

私服に着替えているため、校内には入らず正門外で光を待つ。待ち時間が嫌いな俺が、苛つきもせず待っていられるのは、光だから。
こうして迎えに来るのは毎日で、一緒に帰る、これだけは、引退前と何ら変わりがなかった。

「家に帰ってまた出て来るの、めんどうやないですか?」
「全然」

光を迎えに来るのに、めんどい
とかいない。むしろ、一緒に帰るこの時間が俺を程良くリラックスさせ、勉強も捗るというものだ。

「せやけど、もう寒なってきたのに、外でずっと待っとるなんて……」

俺の体調のことを心配しているのか、半ばまで下げていたダウンのジッパーを上げる。

「ちょ、暑いっちゅー話や」
「そうやって油断しとると、大事な時に風邪引きますよ」

自分も緩くマフラーを巻き直し、寒そうに縮こまる。

「ほんま光は寒がりやな〜。これからもっと寒うなるのに、耐えられるんか?」
「……毎年、もう耐えられへん! て思うんですけど、なんだかんだ言うて耐えられとりますわ」

確かに去年の同時期、毎日「寒すぎて耐えられへん。温い布団ん中で、冬眠したい」て零してたな。そんな光が可愛くて、まだ付き合ってもなかったのに、ぎゅうぎゅう抱き締めて温めてやったことが懐かしい。今では、暑い時でもぎゅうぎゅう抱き締めてるけどな!

「あ……」

しかしこう、毎回毎回迎えに来なくていいと言われると、もしかしてという思いが頭を過ぎった。

「もしかして、迷惑やった?」

当然のことながら、俺と光の仲はオープンにはしていない。知っているのは、元レギュラー陣
と金ちゃんだけだ。
俺は、どちらかといえば隠し事が出来ない性格だから、両親にも言ってある。将来、孫とか期待されても困るしな。俺が両親に、俺達の関係をバラしたことは、光にはまだ言っていない。光、びっくりするだろうな。
ただの先輩・後輩な仲の2人が、こう毎日一緒に帰るのって、端から見たらおかしいよな。仲がいいからと言っても、俺はわざわざ迎えに来ているし、これは仲がいいレベルを遥かに越えてるよな。
恋人同士だから当たり前に思っていて不自然な気はしなかったけど、よくよく考えたらおかしいんじゃないか?

「迷惑なんて、これっぽっちも思うとりませんよ。ただ、いつも家まで送ってくれるし、謙也さんの勉強の時間潰してる思うたら、悪いなて気がして」

この時間こそが俺には必要なのに。迎えに行かなかったら、光無事に家に着いたかな、1人で寂しい思いしてないかな、て気になって、余計に身が入らんわ。

「俺が光を送りたいだけや。自己満やから、光は何も気にせんでええよ」

俺の言葉に、光が制服の袖をキュッと掴んでくる。

「自己満やないです」
「ん?」
「俺も、謙也さんと一緒に居れて嬉しいから、自己満やないで
す。ほんまは、迎えに来てくれて、送ってくれて、めっちゃ嬉しい」

頬を赤く染めて言うもんだから、我慢出来る筈もない。
ここがどこだなんて気にせず、思いっ切り抱き締めてしまった。

「明日も一緒に帰ろうな!」
「……はい」

手を繋いだら、珍しく振り払われなかった。それどころか、握り返してくれて。
ああ、本当に可愛い。
こんな愛おしい子は、他にはいない。


光はああ言ってくれたけど、本当は俺の自己満足だってことを、ちゃんと理解している。
俺が光を迎えに来て家まで送るのは、光に彼氏らしいことをしたいのと、意外と無防備な光を守るため。
光は、強引な行動に弱い。何せ俺は、押して押して押しまくって、漸く光とこういう関係になれたのだから。もちろん今は、光も俺のことが好きだし、他のやつに靡くなんてこれっぽっちも思っていない。
でも、恋人がいてもそれを厭わないやつが強引に迫ったら、光は逃げられないと思う。光は喧嘩は強いが、不意打ちには弱い。
だから、そんな事態にならないよう、警戒もしているわけだ。
でも本当の一番の理由は、光と少しでも長く、一緒にいたいから。


 
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