第2回謙光祭

□カミングアウト
1ページ/2ページ


10.カミングアウト(謙也+父母)


高校3年に上がり、将来を見据えた進学を本格的に考える年になった。


おとんは開業医で、ちっこい頃から冗談めかして「将来この病院は、お前が継ぐんやで」言われとった。
むろんそれは本気ではなく、一度も医者になれ言われたことはない。
ほんまは継いで欲しい思うとるんやろうけど、そこは俺の意志を尊重しとってくれてるみたいや。
俺はといえば、そないおとんを尊敬しとって、自然と医者になりたい思うようになっとった。ただ、俺がなりたいんは……。

「俺も来年は大学受験や。今まで話とらんかったけど、夢があんねん」

テーブルを挟んで、おとんとおかんの向かい側に座る。テレビを消した静かなリビングで、そう切り出した。
珍しく早い時間におとんが帰ってきて、話すなら今がチャンスや、思うた。これを逃すと、忙しいおとんと話が出来るのはいつになるか分からへん。

「もう謙也もそない年齢になったんやな。俺も年を取るわけや」

患者さんに評判の穏やかな笑みを浮かべ、どこか遠くを見るように呟いた。
いやいや、まだ懐かしむには早いで。

「でな、俺な」

心のどこか奥底では継いで欲し
い思うてるおとんに、ちっこい頃からの夢を話すんは、ちょっと勇気がいった。俺が夢を叶えてまったら、絶対病院は継げんからや。
緊張で手に汗をかく。喉が、カラッカラに乾く。
でも、そんな時「夢は諦めん方がええですよ」と、どうしようか悩んでいた俺の背中を押してくれた言葉を思い出す。
最愛の恋人、光に相談した時に、「諦めて病院継いだとしても、心の奥底に澱となって残ってまいますよ。後になって悔やむくらいなら、ちゃんと話して夢を叶えた方がええんちゃいますか? おじちゃんかて、正直に言ってもらった方が嬉しいんちゃうん?」なんて、言ってくれた。
その言葉に後押しされ、漸く言う決心がついた。

「俺な、小児科医になりたいねん。やから、おとんが望む、内科医にはなれんし、病院も継げん」

一気に言って、おとんの目をじっと見る。目を逸らしたらあかんのや。
でもおとんは、俺の言葉に微笑んでくれた。

「謙也はアホやなぁ。別に継がんでええ、言うたやろ? まあ、正直なところ、継いで欲しいいう気持ちがない言うたら嘘になるけれど、謙也の将来は謙也が決めるんや。迷わず、自分が決めた道を進めばええ」

応援したるから頑張り。そう言
うてくれて、正直に話して良かったて思うた。

「しかし、謙也が小児科医なぁ……。子供好きやもんなぁ。自分の子供が出来たら、子煩悩になりそうやな」
「あんな、おとん」

さっきより緊張する。いや、比べもんにならんくらい、心臓がバクバクいうとる。
家族んことが好きやから、これ以上隠しときたくない。

「俺、中2ん時から付き合うとるやつが居るん」

さっきはあまり驚かんかったおとんが、めっちゃ目を見開いとる。そりゃそうやろな。恋人の存在を、一切におわせんかったもんな。

「そりゃ初耳や。え? 中2から今まで、ずっと付き合うとるん?」

頷けば、

「全然気付かんかったわ〜。どんな子ぉや?」

興味津々で、身を乗り出して聞いてくる。
今まで、弟の翔太はよく彼女を連れてきたりしとったけど、俺はそういうんが一切なかったから気になったんやろ。
でもな、おとんかて何度も会うたこと、あるんやで。

「生意気で毒舌吐いて意地っ張りなんやけど、実はめっちゃ優しくてかわええやつなんや。俺は、もうあいつ以上に好きになれるやつなんて、出来ひんて思うとる」

息子の、ノロケとも取れる言葉に、何故か照れるおとん。

「今度、家に連れて来なさい。どないな子なんやろな〜。楽しみや」

おとんが思い描いとるような子ぉは、絶対来ぃへん。

「おとんも会うたこと、あるで」
「え、そうなん? けど、謙也、女の子連れて来たことないやろ?」
「俺が付き合うとるんは……」
「光ちゃんやろ?」

それまで黙って聞いていたおかんが、口を開いた。
その発言に、おとんばかりか俺も驚いた。

「…え? 光ちゃんて。……あの、光くん?」

なんでおかんが知っとんねん。俺と光の仲を。
おかんを見れば、ふっと小さく息を吐き出し、俺をひたりと見据えた。

「とうの昔に、光ちゃんから聞いとったわ。あんたらが付き合い始めた頃ちゃうん? 光ちゃんが泊まりに来て謙也が風呂に入っとる時や。謙也と付き合うとるん言うてきたわ」

おかんは初め、大層驚いたらしい。謙也に唆されたん? なんて返したらしいから、失礼な話や。
光は、自分が唆した言うたらしい。強引に迫って、俺を頷かせた、て。やから、俺は悪ないて。
告白してきたんは光からやし、それが少し強引やったのも確かや。なんせ驚いた俺に、キスしてきよったからな。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ