第2回謙光祭

□ゴミ箱
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7.ゴミ箱(謙也→光)


シュッ。ポト。
いつもは騒がしい部室に、俺と財前の2人っきり。
それ幸いと、部室隅にあったゴミ箱をロッカーの前に運び、鞄の中からルーズリーフ1枚取り出すとぐしゃぐしゃと丸めて。
何するんやろと見ていたら、適度に距離を置き、ゴミ箱に向かって投げ始めた。投げた紙ゴミは、ゴミ箱に届かず落ちた。
それを拾っては投げて外し、また拾っては投げて、を繰り返す財前。
うん。真剣な顔して、めっちゃかわええんやけどな。
一体、何してるん?

「ざ〜いぜん。さっきから何しとるん?」
「練習っすわ」

俺の方を見ず、ばっさりと一言で片付ける。一方通行やなくて、もうちょい会話のキャッチボールをしようや。

「練習て?」

また放ち、力が足りんのか、ゴミ箱の手前で失速し入らんかった紙ゴミを見て、溜め息を1つ。

「ゴミを投げて、ゴミ箱に入れる練習っすわ」

疲れたのか、諦めたのか。
紙ゴミはそのままに、手近なベンチに腰掛ける。
ゴミはちゃんと捨てなあかんよ。小石川に怒られるで。
紙ゴミを拾い、財前と同じ位置まで下がると、無造作に投げた。綺麗な弧を描いてスッとゴミ箱に入ったのを見届けると、ど
や? っちゅーふうに財前を見る。
あっさり入った紙ゴミに唖然とするものの、瞬時にきっつい目で睨んできた。

「何すかそれ。嫌みっすか?」
「ええ!! ちゃうよ!」

何でそうなんねん!
財前が何度やっても入らんかったゴミを一発で入れたからって、何で嫌みになんねん。

「てか、何でそないなこと練習してんのや!」

聞けば、睨んでいた目が和らいだ。何故か、顔を赤らめてもじもじする。
そんな財前が可愛すぎて、倒れそうになったわ! 犯罪級の可愛さやな!
俺が、心ん中でそう叫んどるのも知らず、ぽつりぽつりと話してきた。

「甥っ子が……」
「財前、甥っ子なんて居るん?」

初耳やわ〜。そういえば、年の離れた兄がいる言うてたっけ。とうに結婚してて、一緒に暮らしとる言うてたけど、まさか、甥っ子まで居るなんて思わんかったわ。
俺の言葉に頷くと、続きを話す。

「兄貴がゴミを捨てる時、投げたんがたまたま入って、甥っ子がそれを真似し出したんっすわ。それだけやったらええんですけど、俺にもやれ言うて強制してくるんっす。やから、練習しとるんです。1回やったれば、満足するやろうし」

ようするに、甥っ子にええとこ
見せたいわけやな。どんだけかわええねん。

「財前は真面目やな〜。よっしゃ! 俺が百発百中入れる方法、教えたるわ!」

そう言ったれば、財前にしては珍しくおずおずと、「ええんですか?」なんて聞いてくるもんやから、めっちゃ興奮した。もちろん、心の中で。

「当たり前や! かわええ後輩のためやもんな!」

頭を撫でれば、これまた珍しく振り払われない。

「先輩、おおきに」

そう言うて笑う財前がとても可愛かったから、思わず抱き締めてしまった。


******


「――で、甥っ子のこと話す財前が、めっちゃ可愛くてな! 危うく、好きやー言うてまうとこやった」

「もう、告ってまえばええやん」

「嫌や! そんでフられて距離置かれたら、俺耐えられへん。うっかり抱き締めてもうたんやって、何とか誤魔化したんやで。財前、俺ん腕の中にフィットして、心地良かったわ〜。……やなくて! もし財前に触れんようになったら、元気の元、チャージ出来ひんやんか! 1日1スキンシップせな、気ぃ済まん!」

「……さよか。ま、謙也の好きにせぇ」



(ほんま、何で気付かへんのやろ。人と馴れ合うんが苦手な財
前が、唯一スキンシップを許しとんのは謙也だけなんに。これは、まだまだくっつかへんな。どうやら賭けは、俺の1人勝ちやな)


END

(C)確かに恋だった


 
 

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