第2回謙光祭

□策略
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6.策略(黒謙也→光)


視線を感じる。
中学に上がって少ししてから、ずっと誰かに見られとるような気がしていた。
ただここ最近は、学校内だけでなく学校外でも感じるようになった。
学校内で感じるもんは、そんな悪いもんでもなく、ただ見られとるなーくらいにしか思わんくて。目を向ければ、誰かしらかと目が合うから、そない気にしとらんかった。
でも外で感じるんは、無遠慮に絡みつくような視線で。正直、気持ち悪うてしゃーない。
後ろを振り返っても誰も居らず。
今日も薄気味悪い思いをしながら、帰路についた。



「それ、ストーカーやないか?」

最近元気ないな、どないした? て聞いてきた部長に、どうしようか迷った挙げ句、今自分の身に起きている事柄を簡単に説明した。
自分の気のせいかも知れんから、先にそう前置きして話したら、徐々に部長の眉間にシワが寄って。

「いや、でも嫌な視線で見られるだけなんっすわ。特に、変な手紙とか電話とか来ぃへんし」
「財前が知らんだけで、いろいろされとるかも知れへんで。あれやったら、家族とかに相談した方がええんやないか?」

それとも俺が一緒に帰ったろか? 言われて、忙しい部長にそ
ないなことさせるわけにはいかないから、即断った。
男の俺にストーカーとかないやろ。
そん時は、軽くそう思っとった。


それが大間違いやったって気付かされたのは、それからすぐで。
付き纏う視線はより粘着質なものに変わり、その姿まで現すようになった。
振り向けば、少し離れた電柱の影に男の姿。帽子を目深に被っとるせいで、顔まではよお見えん。でも歪んだ笑みを浮かべる口元ははっきり見えて、俺が振り向いた時はいつもニタニタ笑っとる。
気味悪い。
わざと帰路を変えてみても、気付けばそいつの足音が聞こえてくる。
帰り道が怖くて堪らんのに、その日も1人で帰路についた。
忙しい部長の手を煩わせたくないから、「あれは俺の気のせいでした」そう言うて誤魔化し。(誤魔化せたかは謎やけど)心配掛けたくないから、家族にも何も言わず。
誰にも言えんまま、何時やつが目の前に現れるか分からん恐怖に、1人で耐えとった。
それを変えてくれたんが、俺がレギュラー入りしてダブルスを組むようになった謙也先輩やった。


足早に歩く俺にぴったりついてくる、もう1つの足音。今日はいつもより近くに聞こるような気がして、恐怖感が増す。
いつもは引っ掛からない信号に足止めされ、舌打ちをする。徐々に近付いてくる足音に、体が強張っていく。
恐怖がピークに達した時、肩を叩かれた。

「ひっ……!!」

小さく悲鳴を上げれば、

「おわ!!」

叩いた方も驚いて。その声は、よく知っとるもんやったから、勢い良く振り向いた。

「謙也先輩……」
「堪忍。いきなり肩叩いたから、ビビらしてもうたみたいやな」

ちょっと困ったような笑みを浮かべ、頭をガリガリと掻く。

「いえ……。すんません」
「ええでええで。声掛けんかった俺も悪かったしな。財前んち、こっちなん?」

着替え終わったらさっさと帰ってまうため、帰り道に誰かと会うなんて初めてやった。
頷いたれば、「なら、一緒に帰ろうや!」と肩を組まれる。
過剰なスキンシップは毎度のことやから慣れとるけど、今はドキドキする。後ろで見とるやつに、変な刺激を与えないやろうかて。
止めさせるには全て話さなあかんから、黙って好きにさせておく。

「せや、明日からも一緒に帰ろうや」

もしも、やつが変な勘ぐりをして、謙也先輩の身に何かあったら。
そう思いはしたものの、いろいろと限界が近かった俺は、その
提案にあっさりと乗った。
それからも変わらず視線は感じるものの、1人やないからかさほど気にならなくなった。
謙也先輩はほんまにええ人で、一緒に居ると気が楽で。
部活帰り、互いの家に寄ったりして、更に親密度は増した。


謙也先輩が俺んちに寄った翌日。
忘れ物したとかで謙也先輩は途中で引き返し、久し振りに1人で歩く帰り道。待ってよ思うたけど、寒なってきたし待たんでええよ言われたから、1人で帰ることにした。初冬の今時分は、日が暮れるのも早い。
今日は、あいつの視線も感じんくて、油断しとったんやと思う。
薄暗い、いつもの帰り道。近所の公園に差し掛かった時携帯にメールが入り、確認してみればさっき別れた謙也先輩やった。

『財前に渡すもんあったの忘れとった。家、寄ってもええ?』

何てこともないメールに、何故か口元が綻ぶ。

「先輩、アホやなぁ」

『ええですよ』て返し携帯をしまったとこで、脇から伸びてきた手に腕を取られた。
驚いて見てみれば、そこに居ったのは。

「俺以外のやつと楽しそうにメールして、悪い子やなぁ。それとも、俺の愛を試してるん?」


 
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