第2回謙光祭

□遺伝子
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5.遺伝子(謙光+翔太)


「あれ? 光くん?」
「何? 出掛けるん?」

愛しい愛しい恋人の光を家に連れて帰れば、ちょうど部屋から出て来た弟の翔太とかち合った。どこかに出掛けるんか、パーカーを羽織りリュックを背負ってる。もうじき、夕飯やで。

「ああ、ちょい友達んとこにな。光くんは?」

光くんてなんやねん。馴れ馴れしくないか? ちゅーか、何光も許しとんねん。

「明日部活休みやからゲームの続きやろ、いうことになってな。今日、泊まるで」

時間を見てはちょくちょく2人で進めとったんやけど、やっぱなかなか進まんで。明日の部活が休みと分かった瞬間、光に泊まりに来んか? と誘いをかけた。やはり光も早よ続きがやりたいんか、即OKが出た。
俺んちの両親も光んちの両親も寛容なんか、いきなり泊まりになっても文句言われへん。むしろ俺のおかんは、光んことをお気に召しとるから、絶対怒られへん。息子の俺が、ちょっと引くぐらい大歓迎しよる。
唯一反対すんのは光んとこの兄ちゃんで。

「……せやから、今日は謙也さんちに泊まるから! はあ? 何言うとんねん! ええから、おかんに言っといてや! ほな!」

珍しく兄ちゃんがこの時間に居ったんか、運悪く電話に出てしもたらしい。

「ほんま、兄ちゃん意味分からへんわ〜。男は狼なんやで! て、なんやねん」

兄ちゃんの言ってることは、広い意味で正しい。なんせ、俺はいつでも光が食いたくて堪らんからな。……兄ちゃんに、俺らの関係、バレとるんやろか……?

「ほな、行きましょ。謙也さん、服貸して下さいね?」

……急なお泊まり、俺も大歓迎や。俺ん服着た光は、めっちゃかわええんやで。



「しかし、兄ちゃんと光くんて、ほんま仲ええよな。そんなにべったりで、飽きひんか?」

光が風呂に行っとる間、リビングでテレビを見ながら待っとると、翔太がマグカップ片手に向かい側に座った。
学校でもそうだが、休みの日もしょっちゅう一緒に出掛け、部活が休みの前日は必ずといっていい程、どちらかの家に泊まりに行く。たいてい俺んちに泊まるんやけど。
俺の部屋には光の私物が置いてあるし、光の部屋にも俺の私物が置いてある。
しかし、光に飽きるとか、あり得へんやろ。あないかわええ生き物、他には知らんわ。毎日新しい発見があって、益々のめり込んどるわ。

「兄ちゃんはともかく、そんなんじゃ光くん彼女も出来ひんやろ」
「俺はともかくてなんや。ええねん。今は興味ない言うてたから」

彼女は居らんが、光には彼氏が居るで。
弟といえども言える筈はなく、こっそり心の中で呟いた。

「えー、そうなん? じゃあ、クラスの女子で、光くんこと好きやー言うとる子居るんやけど、諦めぇ言うとこかな」

光がモテるんは分かっとったけど。こうリアルに、誰々が好き言うとったて聞くんは嫌やなぁ。
可能なら、光は俺んやーて声を大にして言いたい。俺は構わんが、光が嫌がって言えんのやけど。
男同士だから隠しとるわけちゃうで。光は、俺んこと思うて隠したい言うた。俺が、好奇の目に晒されるんが、嫌やなんて。
光はいつだって、俺んことを一番に考えてくれる。ほんまによく出来た恋人やで。

「兄ちゃん、顔にやけとるで。キモい。やから、彼女の1人も出来ひんのや」
「……余計なお世話や! 俺かて普通にモテるわ。ええねん。今は、光と居るんがいっちゃん楽しいんやから」

頭をぐしゃぐしゃに掻き回してやる。お前が知らんだけで、俺には光っちゅーかわええ彼女が居るわ!

「……まあ、光くんが側に居っ
たら、目移りせんよな」

翔太が呟いた言葉に、

「へ?」

なんて間抜けな声、出してもうた。

「やって光くん、何かかわええやん。俺光くんやったら、付き合えると思うもん。男やけど」

翔太の思わぬ爆弾発言に、開いた口が塞がらない。
何やって……? 光と付き合うてもええやって?
あかんあかん! 光は俺んやで!

「え……? 翔太、何言うとん? お前、光んこと好きなんか?」

兄弟揃って同じやつを好きになるなんて、どういうこっちゃ。遺伝子に、『財前光に恋せよ』とでも刻まれとるんかいな。

「アホなこと言いなや。光くんやったら、男やけど付き合える言うたんや。付き合いたいなんて、言うとらん。そういう意味じゃなくて、光くんことは好きやけど」
「あ、そうなん……」

紛らわしいこと言いやがって。めっちゃ焦ったっちゅー話や。
まあ、誰にも渡さんけどな。

「それに、俺、彼女居るし」

……本日二度目の爆弾発言に、俺はまたもや開いた口が塞がらなくなった。


後日、翔太の彼女の写真を見せてもらったら、どことなく光に似とって、やっぱり遺伝子に刻み込まれとんやな、思った俺だった。


END

(C)確かに恋だった


 
 

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