短編小説

□繋いで手
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【繋いで手】

花火が終わった後、あいねの機嫌がよくなりオレの手を握り振り回す。
子供っぽいというか単純というか、だが読めないところもある。
キルアというガキに対しては尚更思う。

まるで母親のように宥める。
母性本能というのならそうなのかもしれないが、時折見せる表情も普段見せる事のない顔をする。

(あいねは何を見つめてるんだろうな…)

「ぉー?クロロどうかしたかぇ?」

「掴めないやつだと思ってな」

「女の心は海よりも深いというでそ♪」

「あいねが女を語るのか…」

「あはははっ僕にしてみればクロロこそ掴めないよ。僕の何にそんなにご執心?」

「眼?どれも痛いからあげません」と笑うあいねはオレの気持ちを知らない。
「傍に居ろ」と伝えてもそれはオレのコレクションの一つだと思っているからだ。

色んな女と関係を持ったが、一線を越えさせないのはあいねだけだ。

力でねじ伏せるなら、いとも簡単にオレに抱かれるだろう。



「クロロさんの金銭感覚が全く分かりませんっ!」

「なぜ「さん」付けをした…」

「なんで寝るだけなのに…一泊いくらよ!?」

「値段は気にしないんでな。ここだとゆっくりくつろげる。なんでも揃ってるし退屈もしないだろ」

「うぉぉぉんっそうじゃないよぉ!絶対3ケタいってるでしょうっ寝るだけだよ?!」

温水プール、サウナ、プライベートビーチ、執事・シェフ付き、さらにはピアノとピアニストといった設備で
誰にも邪魔される事もなく充実しているので、クロロは気に入っていた。


「確かに後は寝るだけだな」

あいねはよく金銭感覚がというが、…そういえば黒もそうだったな。
オレたちとは大分違うらしい。「庶民だからだ」と声を合わせられてバイトを2人でしているが
貰ってくる金は微々たるもの。


「金は廻りモノだ。そうやって違う奴らが潤うんだから問題ないだろう。」

「ふにぃ…」

納得いかなそうにソファーに横たわる。浴衣から隙間見える足が色っぽくオレを誘っているとも知らずに。

「クロロ〜」

「なんだ?」

「お着替えってあるかなぁ?」

「浴衣脱ぐのか?」

「折角の浴衣しわしわになるの嫌だしねぇ」

「そうか」

オレはあいねに近づき軽く口付ける。

「…あの、照れるから、もちつけ?」

「落ち着いてないのはあいねの方だろう」

先程より深く口付けを交わす。逃げる舌を追いかけ吸い上げる。また放してやれば逃げ
それを追いかけ侵してゆく。

「ぁ…ぅ…」

漏れる声にクロロは気分を良くし、浴衣から覗いている肌をゆっくりとなぞる。
ビクンッと跳ねる体にクロロは口角を上げた。

「オレが浴衣を脱がしてやる」

「ダメ…」

小さく拒否の言葉を口にする。頬を染め息も上がってこれ以上ない色気に、クロロはまた
自身の口であいねの口を塞ぐ。

くちゅくちゅと水音が聞こえ、あいねの拒否が一層強くなる。
クロロを押して退かそうと思っても思うように力もでない。

「無駄な抵抗はするな」

足掻けば足掻くほど浴衣は肌蹴ていき、クロロの手があいねの肌に尚更触れやすくなる一方だった。

「ダメ、クロ…ロ…お願い…やめ、て…」

あいねの願いはクロロにとってはとても大きかった。
顔を腕で隠し、泣いている事は明白で。

「あいね、ひとつ問う」

「………」

「お前は誰を見ている?」

「………言えない…」

「答えろ」

低くなった声に、あいねは涙を拭きクロロの眼を見て言った。

「僕が居た世界の…愛しい人」

一線はその繋がりということかとクロロは不快になり、酷く苦しくもなる。

クロロはあいねを抱き上げると寝室へと連れ込んだ。
あいねの精一杯の抵抗もクロロには通用せず、逃げられない形となってしまう。

「一緒に寝てもこういう事には今までならなかったな。なぜか分かるか?」

「…知らない」

「あいねが大切だからだ」

クロロの歪んだ表情があいねの心を苦しめた。今にも泣きそうな顔をしたからだ。

「ク、ロロ…?」

「オレが本当に眼が目的で傍において置くとでも思ったのか?」

「クロロ…」

「オレがこんなにも執拗になるのは…あいね、お前を愛してるからだ」

胸が苦しい

胸が痛い

「こんな感情になったのは、あいねだけなんだ」

スッと差し出された手にクロロは抱きしめられる。

「僕は怖いんだ…愛してしまってまた離れることになったら僕は…。都合のいい人間だ…
2人を愛すなんて卑怯で、ズルイ…」

あいねの涙は止まらなかった。
小さく震える体をクロロも抱きしめ、あいねに答えを求める。

「オレはあいねを愛してる」

ぎゅっと掴みあいねの嗚咽が聞こえる。オレと同じように胸が苦しいのか…?

「誰にも渡す気は無い。オレの者になれ」

「僕、か、帰れ、ない…の?もう…会え、ないの?」

泣くあいねをただ抱きしめ、頭を撫でる。

あいねの時折見せる表情は、向こう側にいる人間の事を想う時。
どれ程大切なのかようやく分かった気がした。

オレと同じように、あいねはそいつを大切にしているという事に。

「失うのが…怖い…、ずっと傍に、居るって…言ったのに…僕、もう、やだ…」

あいねは酷く脆く弱い。オレにはもってないモノを持っているから一層惹かれた。

「傍に居る。」

「クロロ死ぬの怖くないでしょ?!常に傍にあるって認識でしょ?!僕はクロロを失うのが怖い!」

怒りと悲しみが混じった言葉だったがクロロは優しく微笑んだ。

「オレを失うのが怖い?」

「…怖い…」

「オレもあいねを失うのが怖い」

「……」

「初めて怖いと感じたんだ。それにあいねが居ればオレは死なないよ」

「うん…。皆を守りたかったから治療できる念、習得した」

愛しいと思う。
オレの仲間を守ろうと必死で、習得したんだからな

「…惚れるわけだよな」

「やめてっ照れる!あと肌蹴てるの直したい!」

いつもの調子を取り戻したのか、もう涙は引いていた。

「あいね、愛してる。」

頬を染め視線を逸らす。返事はくれなくとも答えは知っている。


「ちゅっ…」


一瞬の口付はオレを呆けさせるのに十分だった。

「僕は卑怯でズルイ。それでも僕を愛せる?」

「あぁ。お前の全てを愛せる」

「そう…」

あぁ、そんな表情もできるんだな。

オレの全てをあいねにやるよ。だからお前の全てを貰うぞ。
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