恋愛小説
□僕ガ彼女ヲ殺シタ
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僕は彼女に手を差し伸べることもなく、
虚ろに…だけどある種の達成感で以て、
その様子をただ見ていた。
驚きとおそらく恐れのために
見開かれたままだった沙羅の大きな瞳は、
少しずつ輝きを失いながら、
それでも自分の現状を受け容れるべく、
後戻りが出来ない事を悟ってからは
優しく細められつつあった。
沙羅「あり…が…と……星牙…」
聖母マリアが受胎告知された時、
こんな微笑みだったのではないだろうか。
全てを許し、全てを愛し、
そして全てを失う。
彼女は、その命の灯を消そうとする僕に、
本心の感謝の意さえ表した。
呼吸がより小さく、痙攣がより大きくなり、
それでも安らか過ぎる笑顔で
彼女はこの世での業を終えた。
星牙「……」
涙を流すことすら出来なかった。
彼女のために泣いてやることすら出来なかった。
ただ呆然と亡骸へと変わっていった沙羅を、
見つめることしか出来なかった。
今日、僕は彼女を殺した。
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