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□こっちを向いてよ、先生・・・
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その瞬間、十代はヨハンの予想にかなり反して、さっきまでの眠そうな姿はどこへやら、物凄く嬉しそうな顔をして目をキラキラと輝かせて叫んだ。
「先生!もっと叩いて!!」
ヨハンは、十代の頭を叩くと同時に、変なスイッチを押してしまったのだ。(どうせならやる気スイッチ押したかった…。)
それからの十代は凄かった。
廊下でヨハンを見かける度に「叩いて」とねだり、授業をしている最中にヨハンが十代の側を通ると期待に満ちた目でヨハンを見上げ、口パクで言う。
「(た、た、い、て)」…。
ヨハンも最初は変わったやつだなあと思ったぐらいだったのだが、いかんせん、生徒を叩いている教師という図柄はこのご時世あまり、というか物凄く宜しくない。
なので、「もう叩かない」と十代に言うと、十代はかなり駄々を捏ねた。
仕方なくヨハンが「提出期限守って、授業にもちゃんと出たら叩いてやる」という条件を出すと、十代は頷き、提出期限を守って授業にも出るようになった。
そして、ヨハンは2年以上にも渡って十代の頭を叩き続けている。
ヨハンは十代のことを「ちょっとズレたやつ」と認識しながらも、決して嫌いではなかった。
自分に好意を寄せてくる生徒を嫌いになるハズがない。
ただ、その「好意」は生徒から教師に向けられるものとしては、余りにも大きなものだとヨハンは薄々気付いてはいたが…。
レポートをチェックする手を休め、一休みしようかと思ったところで準備室の扉が勢いよく開いた。
「せんせー!」
狭い準備室には大きすぎる声が響く。
「やっぱり来たな、遊城」
「うん。俺、ちゃんとレポート提出したぜ!だから…」
「………叩けってか」
「先生、お願い!」
十代が、まんまるおおきなきらきらおめめでヨハンを見つめる。
これに弱いことを、ヨハンは自覚していた。