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□ハートの片割れ
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目の前で勢いよく頭を下げて告白したのは男で、目線を上げて顔を赤らめながらヨハンの反応を窺っているのも男。
よく見ると睫毛が長くて目が大きくて唇がぽってりとしていて、男にしては女寄りの中性的な顔立ちをしていると思ったが、だからと言ってヨハンの返事が変わる訳ではなかった。

「ご、ごめん…。俺、男はちょっと…」

「男は駄目…?」

告白してきた男―――十代は急に思案顔になり、しばらくすると男同士にしては異常なまでにヨハンに近付いて真剣な眼差しで言った。

「男だからっていう理由で断られるのは、納得いかない。せめて俺の内面を知って、それでも気に入らないなら諦めるよ」

「はあ……。」

「男だから」というのは充分理由になっていると思うのだが、自分に想いを寄せる少年はそれだけでは引き下がらないようだ。それだけ想いは大きいらしい。
十代は続けた。

「ヨハンが嫌じゃなかったらヨハンと友達になりたい。恋人にはなれないけど、友達としてなら付き合いたいと思うかも知れないだろ?」

「うーん……」

恋人になれと言われれば悪いがお断りするが、友達になるくらいはいいんじゃないかとも思う。
初めて同性から告白されて上手い断り方がわからなかったということもあったが、好意を持たれること自体は嫌ではないし、話す限りは遊城十代も嫌なやつじゃなさそうなのでヨハンは申し出を受け入れることにした。

「わかった。取り敢えず、友達からな」

「ほんとか!?やったー!!!」

それを聞いた十代は凄く嬉しそうに笑って、ヨハンに飛び付くように抱きつく。
突然の行動に驚いてヨハンは反動で数歩後ろに下がったが、なんとか十代を受け止めた。

「ちょっ、おい!?」

「さすが俺が好きになった男だぜ!!明日からよろしくな!」
十代はヨハンを抱く腕に力を込めると、床に置いてあった鞄を持ち、赤いマフラーを首に巻いて「じゃあな〜」と何とものんきな声で、でも嬉しそうに頬を紅潮させて言ってひらひらと手を振りながら教室を出た。
十代が去っていった方をぼんやりと見ていたヨハンは、十代からされた友情以外の意味が込められた熱烈な包容と、友達になると言ったときのあの嬉しそうな…花が咲いたような笑顔を思い出し、遅れながらも狼狽えて顔を赤く染めた。




異性からの告白やスキンシップでもこんな反応をしたことがないことに気付くのは、まだ先のことである。


End
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