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□ただの職権乱用
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「はぁ!?ドラマで男同士のラブシーンをやってほしい!??」
『ははは、すまないねえ十代君』
十代が所属している事務所の社長、鮫島が、十代の大声とは裏腹に静かな声で笑う。
「んな急に言われても…撮影日いつだっけ?」
「一週間後だよ」
「うはあ…」
いくら駆け出しの頃から面倒を見てもらっている鮫島が回してくれた仕事でも、男同士のラブシーンとなると、十代にはかなりためらいがあった。
「一話だけだし、ドラマの監督は『十代君じゃなきゃだめだ』って譲らないんですよ…」
さっきとは一転、困ったような鮫島の声に、十代はうっ、と言葉に詰まる。
鮫島にはかなりの恩があるのだ。
事務所の社長兼、俳優養成学校の校長をしている鮫島に、十代は俳優養成学校で出会った。
1年の頃から十代の才能を見抜き、特別目をかけてくれたことを、十代は今でも感謝している。
「わかったよ、やるよ…。」
俳優は経験してなんぼだ、と自分に言い聞かせ、十代は了承した。
撮影当日。
監督から演技の説明を聞いていた十代は、気になっていたことを聞いた。
「あの、このシーンは視聴者にウケますかね…?男同士、なんて」
「心配ご無用なのニャー、若い女の子に大ウケなのニャー!」
やたら自信満々な監督に首をかしげつつ、もう一つ気になっていたことを聞く。
「ところで、相手役は誰ですか?」
その時、背後から声がした。
「俺、みたいなんだよなあ…」
十代が驚いて振り替えるとそこには、俳優養成学校で意気投合し、親友にまでなった男が。
「ヨハン!?だ、だって、昨日メールしただろ!?」
「監督に『絶対秘密にしてくれ』って言われちまって…」
「ハイハイお喋りはそこまで、撮影スタートなのニャー!」
絶句する十代を尻目に、監督は声高らかに始まりを宣言した。
ヨハンに背中を支えられながら、ベッドに押し倒される。
上半身と膝上20センチ程しか映らない為、スパッツのようなものをはいてはいるが、それ以外はもちろん裸だ。
十代はかなり恥ずかしく思いながらも、仕事なのでシナリオ通りに演技をする。
ヨハンに抱きつき、目を潤ませてキスをねだるような表情をすると、ヨハンは十年来の親友である十代ですら見たこと無いような色っぽい笑みを浮かべ、ためらうことなく十代にキスをした。
「んぅ、…!」
思わず声を漏らしてしまい、十代は焦るが、これは声を漏らしてもいいシーンだったことを思い出して演技に集中する。