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□St.Valentine's Day
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2月14日の夕方6時前、暗くなり始めた人通りの少ない道を、ユベルは一人歩く。
紺色のマフラーに黒のライダースジャケット、グレーのダメージスキニージーンズ、黒い革で出来たブーティ。
今日も何とも真っ黒なコーディネートのユベルだが、ユベルは黒が好きなのだ。
そして、今から迎えにいく女の子も…。
目的の家の前に立ち、インターホンを鳴らそうとしとき、ドアが開いた。
「ユベル、上着を取ってくるから、入って待っていてくれ」
「何で僕が来たこと分かったの?覇王」
驚いてユベルが聞くと、覇王は僅かに頬を赤くして「窓から見ていた」とぶっきらぼうに言った。
逃げるように家の中に入ろうとする覇王の服を掴んで引き戻し、顔をこちらに向けさせて抵抗する隙を与える間もなくキスをすると、覇王は小さく呻いたが、角度を変えながら何度も啄むとそれは甘い声に変わる。
ちゅ、と音をたてて唇を離し、至近距離で覇王を見詰めるとユベルはあることに気づいた。
「あれ?覇王、メイクしてるよね?」
よく見ると、瞼には少し色が乗っていて、睫毛もいつもより長い。
唇も、何かが塗ってあった形跡があった。
「ごめん、キスしたからグロスが取れちゃったね…」
ユベルが申し訳なさそうに謝ると、覇王はちょっと不機嫌そうな顔をした。
「姉さ…十代に、無理矢理されたんだ。俺は嫌だと言ってたのに……。文句なら、十代に言ってくれ」
「なら、後で十代にお礼を言っておかないと。今日の君、外に連れ出したくないくらい可愛いよ」
ユベルがにっこり笑って言うと、覇王は俯いて「恥ずかしいことを言うやつだ」と呟いて奥の部屋に入ってしまったが、いつも髪で隠れている耳がちらりと見えたとき、真っ赤だったのをユベルは見逃さなかった。
覇王を玄関で待っていると、ラスボス(ユベルにはそう見える)がユベルの前を通る。
「おっ、来てたのか。かわいこユベルちゃん。ハッピーバレンタイン」
「お邪魔してるよ。イケメン十代さん。ハッピーバレンタイン」
ユベルは十代のことを「美人」ではなく、あえて「イケメン」と言う。
勿論美人なのだが、ユベルが偶然街で十代を見かけたとき、高いヒールを履いて颯爽と歩く十代の両端を女の子2人がガッチリと固めていて、二人とも何とか十代の気を引こうと必死に話し掛けていた。
その様子が、女の子をたぶらかすイケメンに見えたのだ。