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□もう少しだけ、
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悲しみばかりを見るこの目も、
眠るときだけは、閉じられる。
眠りよ、
少しの間でいいから、
私をさらってください。

シェイクスピア 『夏の夜の夢』より






「今日も…まぶたが腫れてる」

ヨハンの骨ばった長い指が、俺のまぶたから頬にかけてをゆっくりと滑る。その心地よさに目を閉じて細く息を吐けば、顔にかかった前髪をそっと払われた。

「俺は十代の手助けになりたい。十代にそんな顔をさせる理由を、話して欲しいんだ…」

親友の悲痛な声にゆっくりと目を開ければ、その端整な顔を悲しげに歪めて、自分こそが今にも泣きそうな顔をしていた。
沸き上がる罪悪感と、燃え上がるような愛しさ。
でも、お願いだから、俺のことを放っておいてほしい。
朝、俺が教室に入ってヨハンと目が合った途端に俺の手を強く引いて、誰もいない屋上に連れ出してすがり付きたくなるような甘い言葉をかけるなんてバカな真似は、もう二度としてほしくない。
親友に恋をしてしまったと気付いたその日から、お前のことを想って毎晩独りで暗闇の中で寒さに震えながら泣いている俺を、どうか解放して。
夜の闇が深くなる頃にようやく訪れる眠りだけが、今の俺の唯一の味方だ。
現実よりさらに残酷な夢をみせることもあるけれど。

「ごめん…自分だけで解決しないといけない問題だから……。大丈夫。もうすぐ、終わるよ」

嘘だ。きっとずっと終わらない。
この恋には、楽しさも、歓びも、救いも無い。唯一あるのは、深い深い海の底のような、冷たくどんよりとした悲しみだけ。
悲しみのせいで体の全ての感覚が無くなってしまったと思ったけれど、心だけは前よりずっと敏感に、貪欲になった。
もし俺がこの想いを伝えたなら、お前は受け入れてくれるかもしれない。人よりずっと優しくて、残酷なお前は。



怖い。全てが怖い。
心の底から好きという気持ちでいっぱいな今、もし、ヨハンに嫌われてしまったら、俺の心は無くなってしまう。空っぽになってしまう。
絶対に迷惑はかけないし、お前が望む親友をちゃんと演じるから、もう少しだけ、


貴方を想っていてもいいですか?






End

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