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□手と手繋いで
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でも、気になる…。
そして、30分ぐらい一人で葛藤した後、森に行くことを決めた。
でもそれは決してあいつらと合流して蝶を捕まえるためではなく、俺は偶然あの森の近くに行くだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
俺は素早く日焼け止めを塗って、あいつらに会ったときの言い訳を頭の中でぐるぐる考えながらリビングにいた母さんに「森に行ってくる」と言って手ぶらで家を出た。
森に着いたとき、空がオレンジ色に染まっていて辺りはまだ充分に明るかった。
キョロキョロとまわりを見渡すが、あいつらの姿は見えなかったので、ためらうことなく森に入る。
森の中はセミの声で満たされていたが、蝶のことで頭が一杯だった俺にはさほど気にならなかった。
それからしばらく歩いてみたが、一向にあいつらと出会わない。
虫もセミぐらいしか見なかった。
俺は蝶を探すことを一旦諦め、森から出ようとくるりと後ろを振り向いたとき、ゾッとした。
森の奥が、暗い。
空を見上げたら、気付けば陽が沈みかけていて、空には濃厚な夜の顔がちらついていた。
嫌な汗が吹き出て、生温い風が俺の体を撫でる。
俺は走り出したくなる気持ちを必死に抑え、冷静になれと自分に言い聞かせたがあまり効果は無かった。
早足に、来た方向へと戻る。
しかしどれだけ歩いても、先に見えるのは木、木、木。
不安で泣きたくなる衝動にも、そろそろ逆らえなくなりそうだ。
俺はついに走った。
がむしゃらに走って、走って…。
走り疲れて木の根本に座ったとき空を見上げると、こんな俺を嘲笑うかのように、美しいという言葉では足りないほどの満天星空ががそこにはあった。
辺りを照らすのは、星の光だけ。
それこそ泣きたくなるくらい綺麗で、思わず自分が迷子になっていることを忘れていると、突然後ろから来た何かに顔を思い切り照らされた。
眩しさに目がくらみながらも薄目を開けてみると、俺の顔を照らしたのは懐中電灯だった。