s t o r y

□御影石
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黒く艶やかな石は墓石であるにも関わらず、凛とした美しささえ感じられる。

そんな石の下で眠る彼女に捧げられた線香が少しづつ短くなっていくのを、もう何時間ともなく見ていた。

――ここを上手く去れない理由は、罪悪感からきているのだろうか――

自分を好いていた彼女ではなく、その弟を愛してしまった事への、罪の意識。
そんなほの暗さが残る俺を簡単に赦す彼女に、軽蔑されたいが為に酷い言葉を吐いた。それでも彼女は笑っていて、泣きたくなったのは俺だった。


変に頭が切れるからか、俺の選択はいつも利害計算から始まる。狡いのだ。

俺が逃げられない事をわかったうえで嘯き、甘やかし、優しく抱く総悟よりもずっと。知らず知らずの内に、一番己が傷付かない道を選び取りそうになる。
そして、それを理性で押さえながら選択をすれば、過激な方へと進んでしまう。
自身の欲望と体裁で雁字絡め、気が付けば身動きがとれなくなっていた。


俺にとって彼女は整えた体裁を見せるべき有象無象の内の一人に過ぎなかった。
世話になったとは思う。
だが、必要以上の会話もなく繰り返す毎日の中で、光になったのは彼女ではないのだ。


こんな荒んだ、感謝の一つも言えないような男に墓前に立つ資格はあるのか。
それでも。資格はなくとも、彼女は俺の大切な人の唯一の肉親であり、敬愛する姉。

仕事の為に、初盆の参加は断ったとはいえ、盆中に墓参りに来ないわけにはいかなかった。

そんな邪な体裁の為にここに立つ俺を御影石が写す。
供えられたばかりの花々と立ち行く煙を前に、手を合わせることすらせずに立ち尽くす俺はなんて無様なんだろう。

色彩は俺を写したように黒く光るのに、どうしても美しさを損なわないこの墓石は、大嫌いになりそうだ。


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