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□バニラエッセンス
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「あれ…?」
篠崎に指定された更衣室を開けると、中で待っていたのは篠崎ではなく奈緒。
「………。」
無言でこっちを見てくる奈緒の顔には苛立ちが浮かびはしているが、何か躊躇うような表情も潜んでいた。
とりあえず隣に座ってはみたがどうも様子がおかしい。
何がそんなに苛つくのだろう。
「え、と…どうかしたの?」
意を決して話しかけてみたが、歯切れ悪く いや…。と言ったきり黙り込んでしまう。
本当、何なんだろう。
「Long time no see!お元気でしたか瀬戸様!!」
随分と頭の悪そうな挨拶をしてきたのは言わずもがな、写真部の部長だ。
たしかに微妙な空気に居心地の悪さを感じていたとはいえ、初めからこのテンションで部屋に入ってこられても困る。
「お陰様で。」
愛想笑いと呼ばれる部類の笑みを浮かべながら会釈を返せば、部長さんはよろよろと壁に寄りかかった。
「ハニカミとは、随分高度な技をお使いになりますね…ッ!!これ以上私を虜にしてどうするおつもりなんですか!!」
「奈緒、顔ひどいよ。」
初めて部長の気持ち悪い発言を聞いたらしい奈緒はドン引きだ。
というか慣れてきてしまっている自分が嫌だ。
「やぁ、藍沢君に瀬戸様!着付けしてくれる方が到着しましたよ!!」
微妙な空気が流れている部屋にずかずかと入ってきたKYな広報新聞部部長は、後ろに鼻息荒い女性を従えてのご登場だった。
着付け…今回は着物か。
セーラー服も猫耳も経験済みの俺は全く動揺しなかった。ノーリアクション。
むしろ良かったとさえ思っている。
しかし奈緒は違ったようで、何やらブツブツと文句を言っている。
「頑張ろ、奈緒」
初めてが着物なんて運がいいとしか言えないが、文句を言いたい気持ちは十二分に良く分かる。
だから肩を叩き、諦めるように視線で促す事しかできなかった俺は悪くない。
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