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□月の石
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隈が酷い、と 心配そうに俺を見る瀬戸に俺は笑って誤魔化した。

深雪がコキ使うからね。

そう言って肩を竦めると瀬戸は眉を下げて微笑んだ。


生徒会役員で会長補佐を務める瀬戸悠は、つい先日に親友である緋月冬哉と付き合う事になった。
緋月が瀬戸しか見ていないのには結構前から知っていた。
例えば食堂 階下の彼を目で追っていた。
二人とも役付きで仲が良いから比較的一緒にいる時間が長くて、多分他の人より緋月のそういう事を見てきたと思う。

藍沢に聞いた話だと瀬戸も結構前から緋月を見ていたらしい。

ブロークンハート?

わざと茶化して聞けば容赦無い裏拳が飛んできた。
避けると舌打ちをされたが、そういうお前は?と藍沢が俺に言った。

はい?

意味が分からなかった。
俺に好きな人がいただろうか。
いないように思える。

親友に悠とられたな。と言って藍沢は笑った。
あぁ、成る程。と俺も笑った。

緋月らしい堂々且つサラッと事も無げに済んでしまった公開告白。その場に居合わせた生徒は少なくなかった。

俺や奈緒はもちろん、深雪や篠崎なんかもいた。佐々木と佐々木の友達もいたし、確か永城の目の前でだった。

ヒューと、一番始めに冷やかしたのは俺だ。それに続くように泣きながら『瀬戸さんが幸せなら良いっす…っ!!』と喚く男達。緋月の親衛隊達は悔しそうに瀬戸を見るが、その目には憧憬も混ざっていてちょっと笑ったのは記憶に新しい。

あの日、キラキラした小さな破片が俺を刺した。
見たことが無い位綺麗なそれが何なのか俺には分からなかった。
そして、それが刺さった場所からドロリと溶けた汚いものに気付かない振りをした。


それに、藍沢は気付いたんだろう。


藍沢、俺の事好き?


そう言ったら今度こそ殴られた。



月の石




美しく夜に煌めく月の石は黒くて不恰好で美しさの欠片も無かった。
太陽が無ければ輝けない。

これから瀬戸と緋月は輝きを増すだろう。
俺は、この汚い思いを抱えたまま二人の側で笑っていられるといい。


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