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□Don't remind me
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清々しく透き通る空。
所々に小さく雲が浮かんでいるのが更に蒼を際立たせる。
頬を撫でる風は肌を刺すように冷たいのに妙なものだと神妙に天を見上げた。
この冬とも秋とも言い難い季節、屋上からの景色は見るも無惨なものだった。
裏に広がる森林は疎らに葉を落とし、時期を過ぎた紅葉は色褪せて見窄らしい。
枯れ木も山の賑わいと言えど、統一性がないそれは俺になんの感慨も与えなかった。
景色は悪く、風は冷たい。そんな悪条件の重なる屋上に態々来たのにも訳がある。
原因は言わずと知れた幼馴染みにある。曖昧な認知がどんなに残酷なものか初めて目の当たりにした今、未だにショックから抜け出せていない俺は頭を冷やそうと寒空の下に寝転んでいる。
張り詰めたような空気に俺の緊張が融け出して、思い出したようにため息が漏れた。
『翠、聞いて。』
あまり笑わない、人形染みた幼馴染みは普段纏っている人を緊張させる類のオーラを消し去り、柔らかく微笑みながら嬉しそうに言うのだ。
『今日も目が合った。』
サラリと艶やかな髪が揺れる。
煌めく黒曜石のような瞳を細めて綺麗に笑う。
普段表情を変えない幼馴染みは上手く笑えない。でもそんなぎこちなく歪んだ口元が気にならない位、嬉しそうに笑う。
心中で酷いやつだと呟きながら、俺は笑った。
俺は綺麗で残酷な幼馴染みにキスをした。
目元だけを緩ませた彼は、この口付けの真意に気付かないのだろう。
時折俺が求めるソレは親愛の情以外の何物でもないと信じて疑わない。
――気付けよ――
緩く笑った後には、何事も無かったかのように去っていく後ろ姿が憎い。
――疑えよ――
隣を歩く俺を通り過ぎ、話した事もないアイツを追う目線が憎い。
疑って、気が付いて、いっそ嫌ってくれれば俺は遠慮などしなくてすむのに。
事も無げに俺を『すき』だと言うお前は俺を信じきっている。
俺に頼って、笑いかけて、心配をして、心配をかけて、怒って、泣く。
「俺もだよ。」
どんな思いでそんな言葉を吐き出しているか、お前は絶対に気付かない。
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