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□Ciel
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微笑ましいなぁと思わないでもない。
生徒会室で寝てしまったはるちゃんに自分のブレザーをかけてやっていた冬哉を見て、他の役員のこめかみに古典的な怒りマークが見えた気がする。
冬も近付く10月も後半、ただでさえ寒いのに暖房のきいたこの部屋の温度まで下げるのはやめてほしい。
…はるちゃんは無意識だからしょうがないとしても、冬哉は分かっててやってるからね。
まぁ微笑ましいとは思うんだけどね。
湯気の立つ紅茶に角砂糖を1つ落としてから口に含む。
ついさっきまで(冬哉が堪えかねてブレザーかけるまでは)はるちゃんは暑かったのか、Yシャツにダボッとしたカーディガンを羽織っているだけで、しかもそれすら肩からずり落ちてて色気を垂れ流していた。
目元はうっすら赤いし、髪も乱れてるし直視しにくいってこういう事だよね。
無意識ってすごい。
背もたれに寄り掛かりながらあからさまに苛々オーラが漂っている方に目をやればいつもよりキーを叩くのが速い竹内とパソコン壊れるんじゃないかってくらい強くキーを叩く久我。
夏川の手元にある書類は一枚も進まず、端の方が一部しわくちゃになっている。
支倉も支倉で眉間に皺よってるし。
大変だなぁとも、思うんだよね。
お茶請けに置いてあるクッキーを一枚取って食べる。
うん。サクサク。
「ん……。」
軽く身動ぎをしながら漏れた小さな声。
声と言うよりかは息、に近いような耳を澄ましてなきゃ聞こえないものまで聞こえちゃう位静か。珍しいな、こんな静かなの。
…あ、僕が黙ってるからか。
クッキーの残りを口に押し込みながら周りを見れば、支倉以外は元通り。
皆健気すぎてなんだか可愛いとか思っちゃうよ。
とりあえず良かったね、みんな。
紅茶を飲み干した僕が一番にやること
「支倉、眉間。」
毎回変わる不機嫌なお方の機嫌直し。
本当ははるちゃんがすればいいんだけど生憎天然でやってるから自覚無し。
期待するだけ無駄だよね。
かわいーから許すけど。
「じゃあ冬哉、僕ははるちゃんと帰るから。」
にっこり笑って言えば仕方なしにだけど頷く冬哉。
ラッキー、公認サボり。
はるちゃんを揺すって起こせば案外すんなり起きてくれて、自分にかかってた冬哉のブレザーに青くなったり真っ赤になったり、本当可愛い。
まぁ生徒会室の雰囲気は下降線を辿ってるんだけどね?
付き合ってないのが不思議なくらいイチャついた空気が悪影響。
「ほら、はるちゃん行こう。」
これ以上空気が悪化しないようにはるちゃんの手を引く。
早くしないと久我の席のパソコン壊れるし、夏川の所に回してある書類がぐっしゃぐしゃになるし、支倉の胃に穴開きそう。
まぁ竹内だけは仕事の進みが格段にペースアップしてるけど代償が大きすぎ。
「あ、ごめん。先に失礼するね。」
律儀に頭を下げるはるちゃんを見て心がほっこりした。
微笑ましいとは思ってるんだ。
ただ、大変だとも思ってる。
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