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□月が綺麗ですね
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崩れかかった空の色が黒くなった液晶画面に反射して俺の心をも突き崩そうとする。
『編入生につかまっちゃったから、先に帰ってて。』
最近付き合い始めた瀬戸悠から届いた至極簡潔な文章に溜め息を一つ。
直ぐに返事を返す操作をするもメール画面のまま、時折短く綴られる言葉を何度も何度も消し、未だに本文に一文字も入力出来ずにいた。
――どう返すべきか。
わかった、でも
そうする、でもしっくりこずに浮かび上がる感情を文字に表せない。
一面灰に染まった景色の下、小さい人影が疎らに寮への道を歩んでいる。
空調設備が整っているこの部屋は温くて、人知れず溜め息が出た。
この場に本人が居たならば、この言葉にならない感情を余すことなく体感させてやるのに。
9月某日。
残暑も終わり、久々に感じる肌寒さを俺は舐めきっていた。
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