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□空が凪ぐ
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彼女に再会出来たのは本当に偶然としか言いようがなかった。

まさか初対面で連絡先を聞いてしまうような失礼はできず、理性を優先させたのだから当たり前だ。

季節は、あの眩しかった夏を過ぎ、冬へと変わっていた。

それでも直ぐに分かったのは彼女が、あの煌めく陽射しの元で見た時と変わらず穏やかで優しかったからに他ならない。


「こんばんは、お兄さん。」


あの時、本当に適当にタクシーを走らせた。そして丁度目についた公園で停めてもらったのだ。

乗った時に俺が要求したのは"メーター1万円で行けるとこまで" ただそれだけ。
限りなく遠くに行けるとしたらそれを望む気持ちを自制できる自信なんて全く無かった故に出した結論。範囲指定。

道なんて覚えて居ないし、結局適当な所でメーターを止めてしまったから端数だらけの金額なんて記憶から消えていた。

だから、古ぼけたベンチの他に何もないこの場所で彼女に会えたのは偶然。


「…今晩は。」


制服なのだろうか。
マフラーを巻き、コートを羽織った上半身とは反対に短いスカートから覗く白い足がヤケに寒そうで、思わず俺が身震いしてしまった。


「また会いましたね。」


隣に腰を下ろした彼女は以前より伸びた黒髪を年季の入った白熱灯の元に晒し、やっぱり変わらない穏やかな笑顔を俺に向けた。


「そうだな。」


ほう っと言葉と共に吐き出した息は白く濁り静寂に溶けた。
そしてやっぱり我慢出来ずに自分がしていたマフラーを解き、彼女に差し出してしまったのはあまりにもスカートから伸びた細い足が寒そうだったからに他ならない。


「大丈夫ですよ、見た目より寒くは無いんです。」


やんわりと断る彼女は終始笑顔。
だけど見ていられないのは変わらない。
寒そうでどうしても気になるのだ。


「前も話したと思うが、俺は男子校に通っている。だから、スカートに耐性が無いんだ。見いてる此方が寒いから、かけておけ。」


本音はもっと奥にあって、滲んでいて掴みにくい。
だからと言ってこの言葉が嘘ではなく、八割型本当だ。

男子校にこんな冬に肌を出したがる生徒はいない。


「…ありがとうございます。」


白魚のような綺麗な指が黒いマフラーを受け取る刹那、穏やかな笑顔がはにかんだような、照れたような類のモノに刷り変わったのを俺は見逃さなかった。


「それにしても、私とお兄さんって縁がありますよね。」

「…深雪。」

「え?」


星を見上げながら呟く彼女につられて、空を仰ぐ。

横顔に視線を感じるが、一向に星から目を反らす気配の無い俺に気付き、彼女もやっぱり空に目を戻した。


「…葵、です。深雪さん。」


耳に馴染む柔らかな声を聞いて、やっと俺達は自己紹介を終えた。


「不思議だな。」


会ったのは、これが二回目。
だけどお互いに馴染むこの空気が不思議でしょうがない。


「本当、凄い確率で出会ってますよね。」


約束なしに、二回目があるなんて。

そう続ける彼女に視線を移し、ゆっくり流れる時間に身を任せていたい衝動に駆られる。
物心ついてから割と感情に任せて行動することも、したいと思うことも無かったと記憶している。
そんな俺が何かに執着するのは実に妙な気分だった。


「なら、三回目は必然にしないか?」


だが、強ち不快ではない。

真っ直ぐに目を見て伝えた言葉は、前よりもはっきりした気持ちを残して、カタチとなった。


「喜んで。」


見えない赤外線で送られる"三回目"は季節を跨がずにやって来るだろう。

それの事実がゆっくりと心を満たしてじわりと全身に広がった。




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永倉と現彼女第二段!
二人はラブラブって言うより静かで空気が和むカップルにしたい。


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