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□あなたの仕草1つで僕は息絶えていく
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「瀬戸。」
静かに響く自身の名。
カサリと
紙同士が擦れる音
かちゃりと
陶器同士がぶつかる音
忙しなく動くのは俺の心臓だけで、広い生徒会室に二人きり。
でもきっと緋月は緊張なんてこれっぽっちもしていないに違いないのだ。
呼ばれた名前に返事はせずに、黙って会長用に備え付けられている机に向かう。
そう。いつもの事。
いつも、こんなもんだろ?
ただ、いつも騒いでる面々が居ないだけで…。
変に緋月を意識し過ぎて『いつも通り』が分からない。
広がる緊張
そんな俺の足音さえも敷き詰められた上質なカーペットが消し去って、やっぱり心音だけが煩く残る。
「お前、具合悪いのか?」
机のすぐ脇で立ち止まった俺を見ながら、妙な事を聞いてくる緋月に少し緊張が溶ける。
「いや、別に具合は…」
首を傾げて否定しようとした時
ギシリと音を立てて高価そうな皮張りの椅子の背に寄りかかり、足を組みかえた緋月は、真っ直ぐこっちを見ていて。
空気に溶けた筈の緊張がじわりと身体に馴染んだ。
「本当か?」
真摯な眼差しに気圧され、息を飲んだと同時に顔に熱が集まるのが自分でも分かった。
「具合なんて、全然、悪くないよ。」
絞り出すように吐き出した言葉は所在無さげに空を漂って消えた。
「なら、良いんだ。さっきから変だったから気になったんだよ、悪かった。」
ふっと、口の端を上げて優しげに細められた目に息をするのを忘れた刹那、
「でも、顔色悪いのは本当。」
立ち上がった緋月は綺麗な所作で俺の頬を撫で、そのまま髪に指を絡ませながら空になっていた自身のカップを指にかけた。
「今日は早く休めよ。」
文字通り、言葉を残して隣接されている給湯室に入った。否、多分入った。
振り向けなかった俺はその後の全てを見逃したのだ。
今
肌に
触れた?
先程とは比べ物にならない速さで耳の奥に響く心音。
「〜〜〜〜ッ!!」
主の居ない椅子が人恋しさを助長し、自分が発した言葉の残滓をかき集めて何処かに放り投げてしまいたくなった。
あなたの仕草1つで僕は息絶えていく
立ち上がる
歩く
振り向く
笑う
名を呼ぶ
あなたの全てに惹かれる俺は何処か可笑しいのかもしれない。
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