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□覚めざらましを
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竹内×悠(If物語)
「抱きたいです。」
「−−え?」
我が永城学園も時代に乗り遅れる事なく2期制へと変わったお陰で今年から秋休みなるものが出来た。
この世には(少なくともこの学園では)その休みを利用しないカップルはいない訳で、例に漏れず俺達も部屋に2人きりの所謂お家デートなるものを楽しんでいた。
「先輩の全部が欲しい。」
今時ベタなドラマでも使われないような歯の浮く台詞を恥ずかしげもなく吐き出し、尚且つ様になるのが腹立たしい気もする。
「−−ダメですか?」
三言前の発言からフリーズした俺に近付くのはさぞかし簡単だったろう。
耳元で駄目押しとばかりに甘く囁かれた言葉の意味を理解するなんて高等技術を持たない俺は為す術もなく捕らえられた。
「ハッ…。」
短く漏れた息は静かに響いた。
最近慣れはじめた深いキスを仕掛けられ、漸く息継ぎが出来るようになった俺は必死にタイミングを図るしか出来ない。
必要以上にソッチ方面に疎い俺が一瞬でも意識を他へ向けたなら、行き着く先は窒息以外にないだろう。
「な、に?いきなり…。」
荒い息を整えないままに問えば曖昧に笑って誤魔化される。
確かに十代の俺達は好き合っているなら尚更そういう欲求や衝動は起こりやすく耐え難いものなのかもしれない。
だけど今日このタイミングでこんな事を言い出すなんて…。
一応初めてだし、女々しいが、心の準備はいる。
男同士だし、不安もある。
どう考えたって竹内と行為に及ぶなら、下は俺な訳で、付き合ってから知ったのだが竹内は完璧なるSだし不安は肥大する。
「怖いですか?」
頭を撫でながら問い掛けてくる質問は優しげな表情とは裏腹に意地が悪い。
「そりゃ、少しは。」
言葉尻を濁しながら呟けば薄く笑う。
妙に大人っぽい後輩に心臓が跳ねる。
「お前、きらい…。」
目を反らしながらそんな嫌みを口にしても余裕そうな顔は崩れず、愉悦を含んだ笑いが濃くなった。
ただ笑うだけの後輩は壁に寄りかかる俺を正面から抱き締めた。
女性とは違う骨ばった感触。顔を埋めた肩から香るのは淡いミントの香り。
いつもは頭をスッキリさせるキシリッシュな香りさえもこの甘やかな時間には勝てないようで、仄かに混じる竹内の香りだけが脳に響いてクラクラする。
「…不安なんですよ」
吐息混じりに囁かれたのは弱音で、いつもの大胆不敵さがなりを潜めた。
珍しい。竹内が俺に弱音はくの。
不謹慎にも、そう言って笑えば眉を寄せたまま、首筋に舌が這わされた。
「ちょ、竹内!!」
慌てて胸板を押すも、微動だにしない後輩。おれの意見を無視する後輩に焦りばかりが強くなる。
もしかして、
本当に、
このまま、
「笑った先輩が悪い。」
チクリと痛みが走った刹那、俺から呆気なく離れた竹内が不機嫌を隠そうともせずに不満を零し、そのままリビングに備え付けられているソファに多少乱暴に腰を落とした。
一方俺は、ほっとしたような、残念なような、よく分からない感情が胸中を渦巻き、下腹が疼いた。
耐えきれずにズルズルと壁伝いにしゃがみ込めば、人知れず息が乱れた。
覚めざらましを
乱された息が恋しくて、冷たい床を這う指が寂しい。
ゆっくり息を吐き出せばソファから押し殺した笑い声が聞こえた。
「やっぱり、竹内、きらい…。」
きっとこんな些細な感情まで君にはお見通しなんだろう。
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自分的に竹内が可愛い。ちょっとツボです。
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