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□風が凪ぐ
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※深雪×***







「好きです、付き合って下さい!!」

「悪いが、断る。」

「じゃあ、一回抱いて下さるだけで良いんです!!」


初めてそんな事を言われた時は、正直吃驚して断りはしたが上手く宥められなかったのを覚えている。


男同士だからこそ、もっとプラトニックな思いが必要だと思っていた俺は今時の軽いノリに着いていけていなかった。

近くに佐竹はいたが、奴のアレは一種の病気だと思っていたし、佐竹だからそんなに気にしなかった。
…奴は幼稚舎の時から軽かったから生粋の遊び人なんだろう程度の認識しかなかった。

だがこの学園において奴みたいな性癖は特殊では無いようだった。




「…ハァ。」


重苦しい溜め息を吐きながら名も知らない公園のベンチに座り、空を仰ぐ。

久々に風紀の仕事もたまってないし、学園から出たいという欲求に歯止めが効くはずがない。
最近は告白の回数は増えるし、ロッカーや下駄箱には手紙が溢れ出る。お陰で親衛隊の許可を考え直している最中だ。

休日で部屋に籠もってしまえば特別なカードを持たない生徒達は俺の元までたどり着けないが、なんとなく学園に居たくなかった。
本当に逃げたい一歩手前、疲れていた。


「…溜め息吐くと幸せ逃げますよ。」


そんな折、寮監から外出許可をもらい、タクシーを捕まえ、適当な公園で下ろして貰った俺は言わば迷子に近い。
現在地 不明。
目的地 不明。

かけられたら声は透き通っていて、耳馴染みがない。

女性のそれだった。


「ご忠告どうも。」


素っ気ない返事になってしまったが俺にはそんな気は全くない。
いつも通りの声音にいつも通りの口調。


「お兄さん、折角格好良いのにそんな無愛想じゃ台無しですよ。」


笑みを絶やさずに隣に座ってきた女性。

サラサラと流れる黒髪は男子校ではお目にかからない艶のあるロング。
目元は柔らかくて鼻筋も通っている結構な美人だった。
しかしよく見れば顔立ちはどことなく幼い。


「そう言われるのは初めてだ。」


観察めいた事をしてしまったのに罪悪感を感じ、平然を装ったが彼女は全く気にしていないようだった。


「私兄がいるんですけど、兄も無口無表情気味で愛想がないんですよね。」


クスクスと笑いながら話す彼女。
以前佐竹が言っていた【女は香水臭くて馬鹿。んで化粧がすごいんだよねー】という感じは全くしない。


「しかも幼い時からエスカレーター式の男子校に通っててあんまり会えないのに冷めてるし。」


女性の声はこんなにも耳触りの良いものだっただろうか。
虚空を見つめながら彼女の話に耳を傾けていると気になるワード。

【男子校】

彼女がこの公園に居るということは家は近いに違いない。
俺もそこまでタクシーを走らせた訳ではないので、もしかして。

それはもしかして全寮制男子校である永城学園ではないだろうか…。


「でも兄とは仲良いんですよ。」

「もしかして…」

「はい?」

「お兄さんの通っている学校は…」

「あぁ、私立の全寮制男子校なんですけど、永城学園ってご存知ですか?」


やっぱり。

しかも妹がこんなに綺麗なら兄とて見れない顔ではないだろう。

要観察リストに入っている奴かもしれない。もしくは役付き。




はしゃぐ子供の声やボールを蹴る音。脇を通り抜ける風は乾いていて気持ちがいい。
久々に凪いだ心は新しい出会いで柄にもなく落ち着く。

隣に座る穏やかな人を

もっと知りたいと思った。








−−−−−−
深雪と現彼女の出会い
彼女の兄とは一体…(笑)
彼女の名前【葵】といいます。


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