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□カタルシス
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気になっていると自覚したのはつい最近。
目で追いはじめたのはいつだっただろう。
「ちょっとちょっと、緋月サン?」
「あ?」
「人の話を聞いてましたぁ?」
「…悪りぃ、何の話だ?」
末期だ。
佐竹にこんな事を言われる日が来るとは思ってもみなかった。
「だからぁー投票用紙の印刷終わった?ってハナシだよー。」
それに あぁ と短く返すと溜め息をつかれた。
溜め息をつきたいのはこっちだ。最近見かける回数が減って仕事が手につかなくなってしまっている自分を殴りたい。
「緋月はさぁー、ハルカちゃんの事知ってる??」
通称では全く分からないから佐竹を見つめていると、あぁ、とフルネームを口にした。
「瀬戸悠ちゃんだよー、タメのキレーな子。知らない?俺的深雪より好みー。」
正直佐竹の意見はどうでもいい。
だが瀬戸悠…最近俺が目で追っている人物だ。
「知ってる。」
「今年はきそう、だよねぇ。」
シャーペンを回しながら楽しそうに呟いた佐竹。
「風紀推薦しちゃおっかなぁ。」
「駄目だ。」
深雪に頼んで、 と愉しげに落とされた戯言に速攻で否定の言葉を発した。
吃驚している佐竹にニヤリと笑う。
「アイツは生徒会がもらう。」
そういい放つと諦めたように天井を仰いだ。
「緋月がいうなら無理かぁ…。」
眉を下げた情けない顔は普段は見ることの出来ない佐竹。なんだか可笑しくて笑うとつられた様に佐竹も笑った。
「深雪の説得は諦めるよー。」
いい加減笑った後に、佐竹がニッコリと笑って言った。
そのかわり、藍沢っちはもらうけどー。とタダでは転ばなかったがまぁいいだろう。
というか藍沢はなんやかんやアイツの隣にいて接触をうまい具合に避けている。苛立ちもするが、是非風紀でその能力を生かして欲しいものだ。
「ねー、賭けしない?」
「…校内での賭博は禁止だろ。」
いきなり何を言い出したかと思えば、仮にも風紀副委員長である佐竹が自ら進んで校則を破りにかかっている。
呆れたように言い捨てると 賭けるのはお金じゃないよ。と言い出した。
結局、金じゃないなら と丸め込まれた俺は佐竹の案を聞くことにした。
「昨日ネコちゃんに貰った食堂の割引券〜。」
俺がこの勝負に乗ったのは言うまでもない。
いくら実家が金持ちだったとしても一応学生の身なので節約を心がける生徒も少なくない。そして俺もその内の一人である。勿論、佐竹も。
「ハルカちゃんは何の部門にランクインするでしょーか!!」
言葉尻と時同じくして割引券を机に置く佐竹。
「いい?」
「あぁ。」
せーの の掛け声と共にアホらしい予想が出揃う。
緋「美人部門。」
佐「抱きたい部門!」
「俺は両方。」
割り込んできた声に反応し、顔を上げると
「涼輔先輩…。」
「お久しぶりだね。」
ニッコリと人好きのする笑顔と共に現れた聡明な先輩は、机に置いた割引券をつまみ上げるとヒラヒラと泳がせながら新聞部部長を呼んだ。
「賭け内容は瀬戸悠の入賞部門でモノは割引券。緋月が美人で佐竹が抱きたい、んで俺が両方。」
胡散臭い微笑みのまま、これまた胡散臭い新聞部部長に割引券を渡すと、君、審判ね。と無茶振りをした。
その結果は周知の事実で割り込んできた人物に割引券を取られたのは悔しい、が、少し嬉しいので良しとする。
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